「味の薄い神山健治的寄せ鍋」永遠の831 alphaさんの映画レビュー(感想・評価)
味の薄い神山健治的寄せ鍋
神山健治の単独監督作。
PVを観る限り面白くなさそうだったが、神山ファンとしては納税義務があるので、しっかり観賞。
WOWOW未加入のため劇場で。
ジャンルは、現代日本のファンタジー風味の社会派サスペンス。
おそらく神山作品に慣れていないと所見ではよく分からないで終わるのかもしれない。
絵面は背景2Dのキャラクタ3Dというハイブリッド。モーションキャプチャのせいか、キャラの動きがゆらゆらして余計な動きが気持ち悪く、未だに3Dアニメーションとしては2010年代感がする。また、アニメーションとして感動するようなシーンはない。シェーダーなどは進歩しているのだろうが、アニメーションとして動きにある種のフェチズムが欲しい。
あと主人公のキャラデザには違和感が残る。
ストーリーとしては、過去の出来事のせいで時間停止能力を持つ主人公が831戦線というテロリストと関係していき、現代社会の構造を目の当たりにして感化されていく物語。
のはずだが、主人公は社会全体に不満をもつものの結局テロ行為やスキャンダルの告発などはせず、ヒロインと生きて行くことを選ぶ。ヒロインとのつながりがそんなにあったようには思えないのに、なぜ?という疑問だけが残る。
ちなみに時間停止能力はエッセンス程度で、特に深堀はされない。009を思い出させるだけ。
要人誘拐事件や株価操作といった、攻殻を彷彿とさせる事件だったり、東日本大震災、責任を押し付けられた官僚の自殺など、社会問題や事件が多く詰め込まれていて、神山節は健在だが、悪く言えば代わり映えしない。
ヒロインの存在は取って付けたようで、主人公とヒロインのやり取りはやや不自然。本作に不要な要素だったように思う。
また、本作品にはカリスマ性のある指導者あるいは悪役が存在しない。東のエデンの滝沢や物部、攻殻2ndGIGのクゼや合田がそうだったが、本作でその役割のはずのヒロインの兄 亜川はパッとせず、聞かなくてもペラペラと思想を饒舌に語り、その実、中身が空虚。やっていることも株価操作に特殊詐欺という小物感。それに感化される主人公にも共感ができない。誘拐方法も時間停止能力頼みなのもいただけない。
テーマとして、大震災で時間が止まってしまった被災地、復興財源を食い物にする者たち、それを意識、無意識的に限らず容認している国民、という構図は悪くないし、確かに少し前の現実だったのかもしれないが、コロナのパンデミック以降の状況とは少し齟齬があるように思える。
あと、夏休み(8月31日)を終わらせる、という標語もビューティフルドリーマーを意識させ過ぎる気もする。
総じて、神山健治がこれまで培った要素や手法の寄せ集めのようで新しさを感じない。ファンとしては、新しい考察、主張、アニメーション手法を期待する。
『曾有の大災厄により世界中が混迷を極めていたあの年』と言っているので東日本大震災のことではないと思いますよ。
日本のみでの地震なら世界中が混迷なんてしませんし