「【一人の老いた朝鮮人女性の生き様を映し出す事で、戦争の残酷さと、その運命に抗いながら生きて来た女性の姿に心の中で頭を垂れるドキュメンタリー映画。】」スープとイデオロギー NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【一人の老いた朝鮮人女性の生き様を映し出す事で、戦争の残酷さと、その運命に抗いながら生きて来た女性の姿に心の中で頭を垂れるドキュメンタリー映画。】
ー 恥ずかしながら、”済州4・3事件”はぼんやりとした概容しか知らなかった。だが、今作を観て戦争は悲劇しか生み出さない事を改めて学んだ。ー
■年老いたオモニが、娘・ヨンヒに初めて壮絶な体験を打ち明ける。
1948年、当時18歳の母は”済州4・3事件”の渦中にいた。
朝鮮総連の熱心な活動家だった両親は、「帰国事業」で3人の息子達を北朝鮮へ送った。
そして、父の死後も母は借金をしてまで息子達に多額の仕送りを続けたのである。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・という事が、前半は娘・ヨンヒとオモニの会話の中で、比較的明るいトーンで語られる。だが、後半30分にアニメーションで描かれる”済州4・3事件の中でオモニの身に起きた事実”には、涙が出そうになってしまったよ。
・以前から、何故に大阪の朝鮮総連は「帰国事業」を熱心に行っていたのかを、私は今作で語られる事実とは別の解釈をしていた。
多分その解釈は、間違ってはいないのだろうが、このドキュメンタリー映画を観ると”別の要因”が有った事が分かるのである。
・オモニは、”済州4・3事件”を経験した事で、韓国を憎み”地上の楽園”と謳われた国に渡った3人の息子達に多額の送金をし続けたのである。
■アルツハイマー型認知症に罹患したオモニが、娘・ヨンヒと共に済州島に行くシーンは印象的である。
オモニの済州島で経験した出来事がアニメーションで描かれる。
そこでは、オモニには済州島で出会った恋人キム・ホンヒと言う青年が居た事。そして、彼が韓国政府に抵抗したために帰らぬ人になり、オモニは幼い兄弟を連れて日本に命からがら来た事が描かれるのである。
その事を、アルツハイマー型認知症に罹患したオモニは覚えていないのである。
だが、娘・ヨンヒはオモニの生き様をこのドキュメンタリー映画を製作する事で、後世に残したのである。
<このドキュメンタリー映画を観ると、朝鮮半島分断、”済州4・3事件”が起きた理由は、全て、戦争である事が改めて分かる。
当たり前であるが、戦争はイケナイ。負の歴史しか生み出さないからである。
だが、このドキュメンタリー映画はその歴史に抗い、必死に生きて来た一人の朝鮮人女性の生き様を見事に描き出しているのである。>