劇場公開日 2021年11月26日

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「人を癒すということへの究極の問いが常に投げかけられる!!」ディア・エヴァン・ハンセン バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5人を癒すということへの究極の問いが常に投げかけられる!!

2022年1月20日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

人気のブロードウェイ・ミュージカルの映画化であり、主演を舞台版と同じベン・プラットが演じたことでも話題となった。

様々なメディアで目にする、「SNSが題材の作品」という取上げ方はもう限界にきているようにも感じられた。というのも、現代のティーンを描くとなると、自然とZ世代が主人公になってしまうからだ。同じミュージカルでも『ザ・プロム』『Everybody’s Talking About Jamie ~ジェイミー』もきっかけのひとつとして、SNSが多様されている。

今作は複数のテーマが複雑に絡み合った作品である。その中でも大きく分けるなら2つ。

ひとつは死後の情報拡散によって、真実が霞む人物像だ。これは『ヘザー/ヴェロニカの熱い日』に通じる部分もあるし、現実社会においても同様のことがいえるが、今ではインターネットやSNSによって、簡単に全く違った人物像を拡散させることができ、さらに真実よりもドラマチックや感動的に演出を加えることで情報を発信する側の自己満足に変換されてしまう恐怖が描かれている。

「感動」や「共感」を求めることこそが、正義だと信じている者の記憶には、すでに当事者の存在は不在だということもいえる。

日が経つと、新たなトレンドに流れてしまう人々を振り向かせるために、情報を上塗りしていく沼構造も描かれる一方で、それによって実際に救える命もあるという真実が観ている側のモラルを迷子にさせる

もうひとつは「嘘」をどうとらえるかというもの。エヴァンがコナーの家族のために、とっさについた嘘によって、事態は思わぬ方向に向かっていく。その嘘が拡散され、エヴァン自身も家族への憧れがあったことで、嘘によって築かれた関係性に依存していってしまうことで、嘘を重ねていってしまう。

しかし宗教というものが、『ウソから始まる恋と仕事の成功術』で描かれていたように、人々の不安や恐怖を取り除くための嘘から発展したものだと考えると、エヴァンが行った行為は、他者を救う嘘が、私欲に走った嘘に変化していくことで、バランスが保てなくなっていく流れが宗教構造の末路とも感じられる。

極端なことを言うと、小さな嘘のままであれば、誰もが救われたといえるだけに、その点では『ジーザス・クライスト・スーパースター』のようでもある。

単純に感動物語として捉えるべき映画なのかという疑問が付きまとう中で、人が人を癒すこととは、どういうことなのかという究極の問いを常に投げかけられているようにも感じられた。

今作で見事な演技をみせたのは、エイミー・アダムスだ。すっかりアデルのような貫禄(最近、アデルが痩せてしまったから少し前の……)になったエイミーの、息子を失った母親の喪失感というのが、表情からにじみ出ている演技は見事!

アカデミー賞において5度も助演女優賞にノミネートされていながら一度も受賞を果たしていないエイミーだけに、さすがに同情票も入るだろうし、今回も助演女優賞にノミネートされれば、受賞してくれるはず。

個人的には『魔法にかけられて』の続編でも、貫禄のあるお母さんになったジゼルの姿が観れると信じている。

バフィー吉川(Buffys Movie)