「コナーの尊厳は?」ディア・エヴァン・ハンセン 大吉さんの映画レビュー(感想・評価)
コナーの尊厳は?
前評判を聞いて期待に胸を膨らませ上映終了間際に滑り込んできましたが正直残念でした。
「あなたは独りじゃない」というのがこの映画が伝えんとした最大のテーマだと思いますが、このメッセージは本編の内容とは乖離しているように感じました。
劇中でエヴァンが経験したことはあくまでも「嘘をついても意味がない」「ありのままの自分でいるしかない」ということ。
たしかに「あなたは独りじゃない」と歌っていましたし、その歌が人々の心を打ったわけですが、
実際にはそれは亡きコナーに向けた言葉ではなく、エヴァン自身が欲していた言葉あるいは望んだ世界のことでしかない。
独りじゃないよと伝えることに意味がないと言いたいわけではなくて、少なくともこの映画では「あなたは独りじゃない、だから大丈夫だ」という言葉を裏付けるようなエピソードがなかった。
希死念慮を抱えるほどの孤独の中にいる人に「あなたは独りじゃないよ」とこの映画で訴えたところで、コナーは死んでるんですよ。
しかも死んだあとは赤の他人によってニセの人格が作り上げられ、その嘘にまんまと家族は涙し、世間に消費される。コナーだけが浮かばれないです。
死ぬまでみんな無関心だったくせに。
良くも悪くも死んだら終わりなんだという現実を突きつけられましたが、それはおそらく本来の意図ではないですよね。
最後コナーがギターを演奏する姿がみられたのが唯一の救いでした。コナーには憩いも居場所もあった。
まあその事実も最終的には「それなのに死んでしまった」という気持ちに着地するので、やはり「あなたは独りじゃないから大丈夫」の根拠にはなり得ません。
コナーのように不安を抱えた人たちの支えになれるようにと言いながら、映画を通してコナーへの思いやりは感じなかったです。
目先の幸せに溺れて嘘を重ねるエヴァンの気持ちや、エヴァンの話を聞いて慰められる家族の気持ちは分からないでもないですけど、
嘘だとわかって観ている私達はマーフィー一家が吐露する歌をどんな気持ちで聞けばいいのか。
元も子もないかもしれませんが、ミュージカルでなければもう少し楽しめた気がします。
豊かで華やかな音楽に彩られるほどコナーの影とエヴァンの孤独が浮き彫りになり、音楽に没頭できませんでした。
言葉がほしいときに決まって歌が始まるのでもどかしかったです。
歌に救われたという声も聞くので一概には言えませんが。
少なくとも私は感動話として処理するにはあまりに浅はかな作品だと感じました。
……と思うままに書き連ねてしまったので最後に好きだったところも挙げておきます。
・「キーを回す前にブレーキを踏む」というエヴァンの内省。冒頭から私の心の中を見透かされた気分でした。
(だからこそこれから始まる物語でどのようにアクセルを踏めるようになっていくのか、と縋るような思いがあったのですが)
・妄想のなかのエヴァンとコナーの音楽は心躍りました。歌も踊りも最高。なによりコナーの踊りが軽やかでキャッチーで一瞬で心掴まれました。もっと見たかった!!!
・「コナー」「コナーの親友」というふたつの仮の人格を通してでしか本音を語れないという構図も引きつけられます。基本的にはエヴァンに自己投影しながら観ていたので分かるなぁと。
エヴァンがついた嘘は口から出まかせというよりは、「ありたかった自分」のことを歌っているのでどこか空虚で切ない。
周囲のリアクションとエヴァンの実情とのギャップにかなり心が痛みました。
コメントありがとうございます。エヴァンも最終的には、嘘をつかなくても友人がいなくても周りの小さな幸せに目を向けて生きていくということを知ったのだと思いますが、これは実際には非常に難しいことです(病を抱えてるなら尚更)。この生きる困難をも肯定しなお生きねばならないという説得力がこの映画にはまるでなかったんですよね。私も当てつけのように感じてしまいました。
映画鑑賞後ものすごくモヤモヤしていたのですが、このレビューがまさに自分の考えていた事を説明しています! 僕的にはエヴァンが"You will be found"(あなたは独りじゃない)という強いメッセージを伝えるスピーチのシーンに心を打たれたのですが、よくよく考えるとエヴァンには親友と言える友達がいないんですよね。こう言うのはあれですが、全く説得力に欠けますよね。当てつけのようにエンディング後に、「周りにいる誰かに相談しましょう」と啓発していますが、この映画を見て、誰がそんな行動を起こすのでしょう。本当に精神的な病を抱えている人達に向けて、結局何が言いたいのか分からないですよね。