「共感の嵐」ディア・エヴァン・ハンセン みゆうさんの映画レビュー(感想・評価)
共感の嵐
タイトル通り、この映画は私にとってとても共感できるものでした。
主に共感できた登場人物は主人公のエヴァンと、死んだコナーの妹ゾーイの二人。
まず、エヴァンの人見知りなところにすごく共感できました。
序盤の方でエヴァンが母親と会話している時に言った、「デリバリーを頼むと配達員と会話しなきゃいけないから嫌だ」みたいな会話からもうヘッドバンキングしたくなるほどの共感。
そして一番最初にエヴァンが歌っていた歌詞の「ガラスの外から手を振っているけど誰からも気づかれない」にもすごく共感できたし、相手に合わせるために、理想の自分を作るために嘘をついてしまう気持ちもよくわかった。
次に共感できたのはゾーイ。こちらは性格というより、家庭環境が自分に似ていた。
自分の兄が人間的にダメでいい思い出がないところ、そのせいで兄が死んでも悲しめないところ、それでも周りは勝手に「兄が自殺して悲しみに暮れている可哀想な妹」と決めつけてくるせいで、悲しんでいるふりをしないといけないところ…などが本当に自分に似てて共感せざるを得ませんでした。
コナーの家族全員で歌う歌詞の「レクイエムは歌わない」という部分も、妹・父・母で全く意味が違っていてたった一曲の内にこれだけ深い意味を込められるのは凄いと思いました。
あえてこの映画の悪いところを挙げるとするならば、それは死人であるコニーについて全く探られていないところでしょう。
何故自殺したのか、はもちろん、果樹園に行った話だってエヴァンがついた嘘なのだから本当にコナーが果樹園を覚えていたかわからないのに、結局コナーの名前を使って果樹園を作ってたり…。
言い方は悪くなりますが、何も言えない死人を操り人形にして、生きている人たちの自己満足に使われた道具でしかないんですよね。
でもそういうところがあるからこそ、この映画はリアルになっている。
実際に死人に口はないし、葬式だって結局は生き残された人たちの自己満足に過ぎない。
だからこそ、死ぬという選択肢を選ぶ前に話し合わなきゃいけない。理解されようとしなきゃいけない。そう強く思わせてくれる作品でした。
個人的にはコナーが本当は何を思っていたか知りたいので、コナー目線の物語も作ってほしいですね。