「誰にも選ばれることのなかった男の物語」ブルー・バイユー bikkeさんの映画レビュー(感想・評価)
誰にも選ばれることのなかった男の物語
「誰にも選ばれることのなかった」辛さをかかえながら生きるアントニオは3歳の時に韓国からアメリカへ里子としてもらわれてきた。生みの母に水に沈めようとされた遠い記憶や、義父に虐待されていても助けず一緒に逃げようともしなかった義母。そして今、まさに強制送還されようとしている彼の「どうして僕をもらおうとしたの」という義母への訴えはそのまま、養子縁組しておきながら国籍取得の不備で国外へ追放しようとするアメリカへの問いかけに
思える。
そんなアントニオを支えるのが愛する妻と義理の娘、そしてがんを患うベトナム難民の女性だ。
頑張ってもうまく行かない時もある、という死にゆく彼女の言葉は、正論で残酷だ。しかし、実母や義理の母もそうだったのかもしれないと、彼女たちに許しを与える優しさにも満ちている。
アントニオを水から救い抱きしめてくれた実母の感触を思い出すシーンは、溺れるような状況の彼にやわらかな癒しを与えてくれるよう。彼は知らないままだが、かたくなだった義母もまた彼を見捨てなかった。
ついに強制送還されようとする空港で。彼を選び一緒に行こうとする妻にここに残れと止めるアントニオ。娘たちのために残ることを選ぶ妻。しかし義理の娘は、そんな彼に駆け寄りすがりつく。「私はパパを選んだ」「パパもお前を選んだ」。
選ばれることがなかった彼が、全身全霊で強く求められ、彼もまた心から選ぼうとする時がようやく訪れた。希望の光がほのかに浮かぶだけに、法律が阻むその結末はあまりに辛く切ない。