「Encanto」ミラベルと魔法だらけの家 神社エールさんの映画レビュー(感想・評価)
Encanto
バイロン・ハワード監督、ジャレッド・ブッシュ監督作品は『ズートピア』のみ観賞済。
公開前に予告編を見て面白そうだとは思ったものの見逃し、第94回アカデミー賞でこの作品の劇中歌「秘密のブルーノ(We Don’t Talk About Bruno)」のパフォーマンスが行われた際に、アカデミー賞のパフォーマンス曲の中でも特に耳に残る曲だと思った記憶がある。
その後、金曜ロードショーとしてテレビ放送される際にまだ未鑑賞なのを思い出し、時間差はあるもののようやく観た。
観終えて思ったのが大家族の話でありつつ家父長制の話であり、かつマジョリティとマイノリティの話でもあるとても間口の広い話ってことだった。
同じ大家族を扱った話で個人的に思い浮かぶのが(劇場やテレビ放送、DVDなど観賞回数が多いのもあって)細田守監督の『サマーウォーズ』なんだけれど、個人的にはこの作品の方が(どちらも好きなのは大前提として)大家族モノとしては刺さった。
それは "人種のサラダボウル"と言われるコロンビアを舞台にしていることで、同じように "人種のサラダボウル"と言われるアメリカ、その中でもハリウッドをも表し、そんな違う人間が互いに(血縁だけじゃない)”家族”として支えあうことを(日本だと核家族以前のように)描くことで、コロナ禍以降の我々の行く(ドアの)先を照らしてるように感じたからだった。
更にそこに能力を”持つ者”と”持たざる者”って面も入れることで”主役(マジョリティ)”と”脇役(マイノリティ)”というメッセージ性も絡む、これまでの家族モノとは一味違う作品になってるのもあり、それをディズニーが制作してるってのは子供たち(未来を担うもの達)にその認識を広めていくって意味でも、2020年代の作品として後世にも語るべき一本として残るような作品になっていると思った。
個人的にはそれぞれ能力のある家族の中で、唯一能力の無い家族を主人公に据えてることがディズニープリンセス(憧れられる対象)に対してのアンチテーゼに(集合写真のシーンが顕著)感じたし、能力がある人も無くなる恐怖を持つことや、関わり合いの中で自分を押し殺すこと、期待に応えられないことで逃げ出してしまうことに対して”そのままのあなたでいいんだ”と、能力が無い主人公が輝けることを相互理解を通じて見せる、原題の「Encanto(魅力、魔力を意味するスペイン語)」その名の通りの人間賛歌の作品だと感じた。
そんな観終えた後も重く悲しくなりがちなテーマを据えてるのに、ミュージカルとして包むことで観終えた後に笑顔で送り出してくれるような楽曲の構成やバランスも絶妙だった。
楽曲も素晴らしいと思ったら作曲担当のリン=マニュエル・ミランダさんは『モアナと伝説の海』や2023年版『リトル・マーメイド』の作曲家でもあることを知って、どちらの作品も気に入ってたので素晴らしい出来に納得した。
メイキングでコロンビア現地に取材に行くだけではなく、制作が始まった後も(過去の情勢によってそれぞれ事情がある)コロンビアの家族や製作スタッフそれぞれの家族の話を聞き脚本に反映させたり、コロンビアの文化(食べてるものや調理方法、建築物、ダンス、ファッションなど)を都度現地の人々に監修を受けリテイクしているのを見ると、コロンビアを舞台として描くことに対して真摯に描き、かつ世界にも通じる普遍なものを描こうとしてるように感じられた。
だからこそ観終えた後にメイキングや吹き替え版、ハリウッド・ボウルでのコンサート映像も続けて観賞したくなったり、劇中に登場するアレパも食べたくなったんだと思う。
惜しむらくはこのムーヴメントを公開当時に感じたかったことだけ。