「オラ、銛手になる。」くじらびと bloodtrailさんの映画レビュー(感想・評価)
オラ、銛手になる。
400年間、継承されて来た生活。結局、なぜ継承されて来たのか、と言う話。
本を読む事は擬似体験だと、昔々先輩に言われて。映画も同じですよね。ドキュメンタリーなんて、その最たるもんだと思う訳で。
そこで暮らし、その場で人間関係を築き、食べて飲んで寝て、寒さを体験し、暑さに卒倒する。時に捕食されそうになったり、仲の良い誰かの死に涙したり、宴会で呑んだくれたりする。
ここ数年、少なくとも日本人が撮るドキュメンタリーは、ドキュメンタリーとは到底言えないシロモノで溢れてて。もうね。観る気、起きんですから。完全に捨ててましたから。日本のドキュメンタリー。
これは数年ぶりに見た、正当なドキュメンタリーでした。
とは言え。
子供たちが学校に通ってない風に見えたりするんだけど、流石にそりゃ無いよね?とか。
抹香なら竜涎香が取れるはずですが、まさか捨ててるん?とか。
しつもーん!と手をあげたくなる場面もしばしば。
ですがですが。
400年前から続くと言う、銛を使う鯨漁の場面には圧倒されます。二隻の船外機に曳かれて抹香鯨に迫るテナ。海面の黒い巨体に向かって飛び掛かるラマファ。テナに突撃する抹香。海面を叩く抹香の臀鰭。テナの船上を這い回る銛綱の数はクジラに打ち込まれた鉄のクサビの数。赤く染まって行く海に、留めを刺すために飛び込む男。
砂浜に引き上げられた鯨は、脊椎だけを残して、すっかりと解体され村人に持ち帰られる。
脳油の凝固点は常温の25℃。お椀で掬い取る女たちの姿に、この村が熱帯にある事を再認識してしまう。
近接し撮影した漁のシーンの迫力。上空からのドローンの画が、効果的にコントラストを作り出します。
ラストは。
クジラが横たわる浜辺と、ベンジャミンが消えた海を交互に映します。自然の中で命のやり取りが行われて来た村の姿。金銭的な豊かさを求めない人々。村人の死は家族の死。400年間変わらない総分配の決まり。
それが理想だとは言わないけれど、幸福の条件の幾つかを、キチンと見せてくれるドキュメンタリーでした。
良かった。