「ロウマ君、僕も何かが足りないと思うよ」グッバイ、ドン・グリーズ! おかずはるさめさんの映画レビュー(感想・評価)
ロウマ君、僕も何かが足りないと思うよ
前半は少年が青年へと変化を遂げる通過儀礼を描き、後半は故人の遺志を確認する旅の行方を追う。たどり着いた「真相」が観客にカタルシスをもたらす。
エンディングも少年の開けた未来を予感させる。
田舎を捨てて、少年は世界へと羽ばたいてゆく。テーマもプロットも定番で、手堅い作りになっている。実力声優3人の競演も成功しており(特に村瀬歩の演技がやばい)、観客の評価が高いのもよく分かる。
ロウマはルックも悪くなく、教養もあって芸術に対する感性にも優れている。
トトも「努力」の才能に恵まれており、東京の進学校に通っている。
そんな彼らは、どちらかというと「イケてる」男子である。
彼らは同学年からハブられているようだが、それは群れた小人たちの嫉妬である。
ドロップがそれを二人に理解させる導入部分は痛快だ。このアイデアは大好物。
しかしながら、彼らはわたくしとは違うことを早い段階で気づかされ、すこし感情がさめた。
その後に描かれる彼らの悩みに十分に感情移入できなかったのはそのためでもある。トトに共感できる程度に、トトの内面や過去が描かれていなかったこともある。
冒険アクションを削ってでも、主人公三人の対話や過去に尺を割いてもよかったと思う。
監督がやりたかったのが「スタンド・バイ・ミー」なのであれば。
通過儀礼を経て成長したロウマとトトが描かれる後半は、ややリアリティにかける気がした。前半が農家とその背景にある地域の日常を丁寧に描いており、学生ならではの無責任なSNSのやり取りと併せて、現実に近い世界観が担保されていたので、いささか驚いた。
ここでもすこしさめた。
確かにあの黄金の滝と電話BOXには泣かされた。「よりもい」のメール受信シーン(ネタバレにはなってないよね)同様、よくできていた。
ただ、あのペットボトルだけではあそこにたどり着けないだろう。
家族・学校・カネ・言語などの障害も含めて省略されすぎ。
これとは対極の美しいカットの連続である。「スタンド・バイ・ミー」を見に来たつもりが「イルマーレ」のような幻想的な奇跡を見せられたというべきか。
終劇後、ロウマ君同様に何かが不足した感じを抱えて帰途につきました。