「原作と別作品として見ればいい」嘘喰い とうきさんの映画レビュー(感想・評価)
原作と別作品として見ればいい
凄く複雑な気持ちで観終わりました。
心の準備は一応できたがまさかここまで好き勝手に原作をいじると思わなかった。さすが獏さんにハーモニカを吹かせたい監督さん、原作リスペクト要素ほぼ皆無でした。こんな内容で迫先生本当にいいのかとても不思議でしょうがないです。
実写版制作発表から6年の年月、嘘喰いの大ファンとして例え実写はあまり成功例がないと分かってもそれなりに期待しましたし、実写のおかげで原作スピンオフ企画もできて作品を知る人も増えてきて嬉しい限りです。それでもこれはもう別作品です。
【賭郎はただ秩序なし信念なしの無法組織】
原作には中立性と公平性が「絶対」な賭郎、そのポリシーを貫くためにギャンブル中例えお屋形様が命の危険があっても立会人は助けない贔屓しないそんな組織ですが映画の中で
・お屋形様が自分の勝利のために組織の権力を借りた上一般人を容赦なく銃殺した
・立会人目蒲は佐田国を贔屓し、彼の復讐のために私刑しても堂々と組織に後片付け任せた(原作には佐田国のイカサマを加担しただけでも必死で隠したのに)
・夜行さんは手合わせ程度で理由もなく目蒲を殺した(原作にはちゃんと號奪戦という事情がある)
【全般的に登場人物設定崩壊】
獏さん - 体力抜群、色男、「いい人」。全部獏さんではない。
梶くん - 金が入った途端浪費癖と女遊びが酷い。原作には獏さんから何回も助けられて親しくなったが、映画には全部描けないからこんな形で繋ごうと思うかもしれないが、それでもこんなエピソードじゃないでしょう!
マルコ - 本名なのに、何故か「ロデム」から改名されたという。
佐田国 - テロリストから平和主義者に一変、加害者から悲劇の被害者になった。
草薙 - 映画オリジナル佐田国の協力者、背景不明、何故か国家レベルの組織「賭郎」のシステムに簡単にハッキングできる。
蘭子 - 一番わけわかんないツンデレヒロイン。もう蘭子すらない。誰?最近はもうこの女優さんの名前を見かけるだけで思わず嫌な気分になる、本人何も悪くないのに申し訳ない。
冒頭で獏さんの情報提供者 - 誰!?
【ババ抜きは問題だらけ】
人物の設定がめちゃくちゃになったせいで、ストーリーも辻褄が合わなくなる。一番ひどいのはババ抜き戦です。本来佐田国はテロリストで革命と亡命のために膨大な資金が必要だから、賭郎勝負にすることになったが、映画の佐田国ですと獏さんと死闘する必要性はまずない。
そして本来立会人の目蒲が佐田国の協力者だからこそできたイカサマなのに、映画ではゲーム終了まで部外者のハッキングを全く気付かなかった。。。「賭郎」はそこまで寛大そしてポンコツの組織ではない。
また獏さんが佐田国にかけた肝心な「お前はただの大嘘つきだ」というセリフですが、本来佐田国は革命家で死を恐れないと大義名分を掲げながら、保身のためにイカサマしたから、獏さんはあんなセリフを投げたが、映画ではそういう背景一切ないからただイカサマに対して獏さんがあんなに怒ったみたいで、違和感しかありません。
そして何より本当のババ抜き戦はカードゲーム以外も色んな出来事が同時進行になって国家の危機まで及ぶほどかなり壮大な戦いになるが、やはり全部描けないのは映画の残念なところです。映画のせいで「噓喰い」はただババ抜きで人を死ぬという安っぽいギャンブル漫画と思う人がいると考えたらもう本当に嫌です。
【続々意味不明な変更】
・地面に落として隠したはずの盗聴器は最初から夜行さんのポケットにあったとか
・カジノの中でお金を必要な人を物色するはずのQ太郎は街中にランダムで人をギャンブルに誘うとか
・「屋形越え」戦の後本当は笑ったはずの獏さんですが映画では何故か泣いたとか(※これはマジひどい)
他にビルが森に変更とか蘭子にまつわる全部の出来事とか冒頭の島生活とか、本当にツッコめば終わらないぐらいこの監督さんちゃんと原作を理解したかと疑います。別に映画化のために変更が必要ということは問題ないですが、変更により本来のメッセージ性、厳密性が失い別作品、別人物になっちゃうことが納得できないです。
【いいこともあります】
色々な不満がありますが、その一方原作からの変更をあまり考えなければ、普通に動いてる噓喰いの世界の皆さんを観ながらニヤニヤして楽しんでる自分もいました。
正直キャスト全員のビジュアル再現度はかなりいいと思います。それだけでも感無量です。キャスト表にはなかったが、まさか立会人能輪美年やマルコもちゃんと登場することで本当に嬉しかったです。そして獏さんと梶くんのやり取りはやはり楽しいです。自分の中で梶くんは結構原作初期でまだ自信がない梶くんの感じに近いと思います。そして蘭子のキャラ崩壊もヒロイン扱いも嫌いですが、それでも蘭子と獏さんのシーンで普通に笑いました。
結局がっかりすることもありながら、キャストたち悪くないし、映画もそのまま受け入れれば普通に楽しい、何より噓喰い本当に永遠に続けて欲しいぐらい大好きですから、実写版続編も普通に欲しいです。ただし今度は自分の世界観ではなく原作の世界観をリスペクトの上、ちゃんと作品のことを理解し、作品が好きな人でお願いしたいです。脚本は是非迫先生に!