「ドタバタコメディと思っていたら・・・」異動辞令は音楽隊! 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
ドタバタコメディと思っていたら・・・
予告編を観た限りでは、阿部寛演ずる猛烈パワハラ鬼刑事・成瀬が、警察音楽隊に飛ばされて繰り広げられるドタバタコメディと思って観に行きました。阿部寛主演の映画だと、2018年に公開された「のみとり侍」の現代版と思っていた訳ですが、コメディ要素は10%もない程度で、ヒューマンドラマと刑事ドラマの部分が大半を占める内容でした。特に良かったと思ったのは、認知症が進んでしまい、既に亡くなってしまった夫や成瀬の別れた妻のことをいつまでも待っている成瀬の母親の姿と、音楽隊に異動になっているにも関わらず刑事時代の感覚で捜査会議に出ようとする成瀬の姿が完全にオーバーラップして切なさを高めているところ。このシーンは前半の山場でした。
また、後で気付いたのですが、成瀬の母親を倍賞美津子が演じていたこと。恥ずかしながら映画を観ている時は全く気付かず、エンドロールで名前が出て来たので誰だろうと思ったら母親役だったことに驚きました。こうした役柄を完璧にこなす彼女の演技力には、正直脱帽しました。
さらに、音楽隊の演奏シーンは、全て役者さん達が自ら行ったものとのことで、その点も感心しました。阿部寛のドラムは様になっていたし、清野菜名のトランペットも上手でした。この演奏シーンこそ、本作最大の見せ場と言っていいと思います。
一方で、大半が兼務で、嫌々やっている音楽隊員達が、当初喧嘩ばかりでバラバラだったのに、成瀬の加入や解散話がカンフル剤となって一致団結するところは、本作の面白い部分であると同時に、スポ根青春漫画チックで若干陳腐さを感じない訳ではありませんでした。また、事件解決に至る過程がかなり端折られ過ぎていて、かつ犯人逮捕のシーンに合理性が欠けていて欲求不満に陥る点など、刑事ドラマとしての締めくくりは正直良い出来栄えとは思えませんでした。
全般に渡ってテンポが良く、その点は評価すべきだと思うのですが、後半はテンポを重視するあまり、展開が粗削りになってしまった印象があったのは、前半が良かっただけにもったいない気がしました。