劇場公開日 2023年9月15日

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「題名からして難解だけど、中島みゆきの歌は最高!」アリスとテレスのまぼろし工場 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0題名からして難解だけど、中島みゆきの歌は最高!

2023年10月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

「君たちはどう生きるか」も難解なアニメ映画でしたが、本作も難解でした。そもそも題名が謎で、「まぼろし工場」は分かったけど、「アリスとテレス」というのが最後まで分かりませんでした。てっきり「アリス」と「テレス」という登場人物が出て来るんだと思ったんですが、全然出て来ない。古代ギリシャ哲学者のアリストテレスと関係はあるんだろうと思いつつ観ていたものの、正直それも明示的な手掛かりは発見出来ないまま終了。

仕方なく各種解説に答えを見つけようとしたところ、どうやら劇中出て来る「エネルゲイア」という言葉がアリストテレスの言葉らしいということが分かりました。でも辞書で調べると、

「エネルゲイア【(ギリシャ)energeia】アリストテレス哲学で、生成の過程の終局として実現する姿。現実性。可能態に対する現実態。(引用 デジタル大辞泉)」

何のこっちゃ(笑)

これじゃあなおさら分からないので、さらにググってみると、「エネルゲイア(活動)」と「キーネーシス(運動)」という2つの概念が紹介されているものを発見。「キーネーシス」というのは一般的な運動で、始点と終点があり、終点に到達するのが目的なものであるのに対して、「エネルゲイア」というのは現在進行形の過程が目的となっているものであるという解説でした。これでも何のこっちゃに替わりはありませんが、本作のストーリーと照らし合わせると、何となく言わんとしていることは分かったような気がしてきました。

本作の舞台となる1990年頃の見伏という街は、基幹産業である製鉄工場が爆発した影響で外界と遮断され、時間も止まって同じ1日を繰り返す無限ループに嵌ってしまいます。中学3年生の主人公たちは、いつまで経っても中3のまま。そんな見伏の状態は、まさに「エネルゲイア」。現在進行形の過程はあるが、終点はない。いや、終点はあるにはあって、ご神体と化した製鉄工場から発する「神機狼」に襲われると、消えてなくなってしまうという終点はあります。なんという悲劇的終点!

で、一応題名問題がなんとなく解決したところで、一体本作は何を言いたかったんだろうと考えましたが、私としてはバブル経済終盤の1990年頃が舞台になっていることがキーではないかと解釈しました。当時の日本は経済力もあり、日本中に活気が満ちていた時代でした。しかしながらバブル崩壊とともに経済成長にブレーキがかかり、米ソ冷戦の終結という国際環境の大きな変化もある中、日本は「失われた30年」に突入します。

主人公たちは中学3年生で時が止まり、高校進学も大学進学も就職もせぬまま同じ日を過ごしている訳ですが、そんな「エネルゲイア」な状態が、幸せなのか不幸なのか?一方で劇中では、爆発により製鉄工場が閉鎖され、普通に時が進む別世界も登場。基幹産業を失い、恐らくは斜陽を迎えているはずの見伏と、30年前のままの見伏。いずれも地獄のような気もしますが、主人公の正宗と睦実は斜陽する未来に期待を掛けて物語が終わったところを観ると、岡田監督としては過去の栄光に囚われず、現実を受け入れて未来を築くべきだと言っているのかなと思ったりもしたところでした。

いずれにしてもいまだに答えは見つかりませんが、本作のために作られた中島みゆきの「心音」がホントに名曲であることだけは間違いありません。という訳で評価は★4とします。

鶏