「岡田さんもそっちへ行くか〜」アリスとテレスのまぼろし工場 スキピオさんの映画レビュー(感想・評価)
岡田さんもそっちへ行くか〜
「あのはな」「ここさけ」の岡田麿里が「さよあさ」以来の監督第2弾。今回のタイトルは珍しく文章ではなく、たいした意味はないようです。どうも「アリストテレスって、アリスとテレスに双子みたいじゃない?」って女子高生ギャグのようです。
冒頭、90年代テーストでメインスタッフがロールされるには古い角川映画?って感じ。で、いきなり工場の大火災で、このシーンが圧巻。舞台を学校に移して、ヒロインの睦実が校舎の屋上からパンツ丸出しにして主人公を煽るCV:上田麗奈の不安定さがゾクゾクします。で、工場に忍び込みAKIRAっぽい高炉の前で、狂った幼女が登場。
って、ここまで凄いんです。でも、凄いのはここまでで、あとは普通の映画。う〜ん、なんか最近、似たような映画を観たな〜と思ったら「君たちはどう生きるか」と同じ。偶然にも冒頭は火事ですね。そう、岡田麿里もエンタメからアートに鞍替えした感じです。
本作のテーマとしては「閉じ込められた街と人々」で、まあ新条アカネがいない(声優としてはいるが) SSSS.GRIDMANなんですね。で、もっとアートなので、1つの意味は「アニメの世界に閉じ込められたキャラクター」なんでしょう。
「車の助手席に乗せられただけで恋してしまう」「大嫌いが大好きになる」とかテンプレのキャラが、「いったい何年同級生をやっている」というぐらい成長もせず、キャラ変していないかチェックし続ける。
そんな生活に嫌気がさしたってこと。そう考えると「あのはな」の10周年で成長したキャラデザをキービジュアルにしたのと呼応しますね。
もう一つが「田舎に縛り付けられてる才能」って、いつもの岡田節。武甲山に鉄道、っていつものお約束もあり、あ〜秩父三部作が戻ってきたな〜と。
裏ヒロインの五実は「幼女のプロ」CV:久野美咲の演技もありとても魅力的で、ちゃんと彼女の成長譚になっています。MAPPAの絵は素晴らしいし、作品的には申し分ないのですが、これはエンタメではなくアートですね。
この傾向自体は喜ばしいことです。ヒット作は鬼退治でもスパイでも大手がプロモーションに金かけてやれば良く、逆サイドとして作家性の強い作品が出てくるのは、文化として成熟してきているのだと思います。
ただ「あのはな」や「true tears」のようなエンタメのなかでギリギリ作家性を出す、ってのが、僕らが好きだったアニメ、なので、あ〜岡田さんもそっちへ行ったか〜、と少し寂しいですね。