「俺たちはどう生きるか。 アリスちゃんとテレスくんが大活躍してた…っけ?」アリスとテレスのまぼろし工場 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
俺たちはどう生きるか。 アリスちゃんとテレスくんが大活躍してた…っけ?
外界から隔絶し、時間からも切り離された寂れた地方都市を舞台に、鬱屈した毎日を送る少年少女たちの恋愛と選択を描いたセカイ系アニメーション。
主人公・菊入正宗の父親にして街に鎮座する製鉄所の従業員、菊入昭宗を演じるのは『ミックス。』『人間失格 太宰治と3人の女たち』の瀬戸康史。
正宗の叔父にして製鉄所の従業員、菊入時宗を演じるのは『悪の教典』『コーヒーが冷めないうちに』の林遣都。
試写会に当選したため、一足早く鑑賞!MOVIXさん、ムービーウォーカーさん、ありがとうございます♪
さてさて、この映画の監督/脚本は岡田麿里。
『ルパン三世』フリークの自分は、彼女がシリーズ構成/脚本を手がけた『LUPIN the Third -峰不二子という女-』(2012)を鑑賞した際、「なんじゃこのクソアニメ!?岡田麿里ぃ、名前覚えたからなぁ〜💢金輪際コイツの作品は鑑賞せんぞ!!」なんて思ったものだが(今にして思えば、革新的な作品を作ろうという意欲が見られた分、その後に作られた『PART5』や『PART6』よりは見どころはあったわけだが…)、なんの因果か再び岡田麿里作品に向き合うことになってしまった。
映画の内容としては、少女の運命と世界の命運が直結しており、かつその中で少年少女の恋愛が発展してゆくという、「キミとボク」的な至極純粋なセカイ系アニメ。
この手の作品を観ると「世界がヤバいことになってるってのーに、乳繰り合っとる場合かーっ!!」と一喝したくなるものだが、そこにツッコミを入れるというのも野暮っちゃ野暮か。
それに、いざ世界が終わるとなったらリビドーと性的衝動に突き動かされるのが自然なのかも。それならそれで、もっと山本直樹的なグズグズした性を描くべきなのでは、なんて思ったりもするが、まぁそれは置いておこう。
同じ日常が延々と続く、という設定は『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984)を思い起こさせるが、作り出された昭和(正確には平成だけど)に閉じ込められるという点は、TVゲーム「十三機兵防衛圏」(2019)からの引用か。
また、モヤの烟る隔絶された過疎地という舞台設定はTVゲーム「ペルソナ4」(2008)やTVアニメ『SSSS.GRIDMAN』(2018)からの影響を強く感じさせる。特に煙を吹き出す謎の工場が街に鎮座している様にはどうしても『フリクリ』(2000-2001)を連想してしまうが、これは本作の副監督を務める平松禎史が『フリクリ』の設定を担当していたことと関係しているのかもしれない。
徐々に滅びてゆく世界とそれを受け入れる人々という図式は小川洋子女史の小説「密やかな結晶」(1994)や村上春樹の「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」(1985)から頂戴したんだろう。
そして、フォトリアルな美術や寂寥感のある人物造形からは新海誠監督のエッセンスを感じずにはいられない。
色々と下敷きにした作品が見え隠れするが、なんやかんや言って一番影響を受けているのは『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-1996)でしょう。主人公の性格や年齢設定など、もうこれほとんど『エヴァ』。
永遠に続く冬という世界設定も、『エヴァ』の常夏という設定を上手くパク…もといオマージュしている。最後で季節が変わるというオチも、それ漫画版「エヴァ」で見ましたよ。
キャラや設定だけならまだしも、執拗なまでに線路を描くという徹底ぶり。そこまでしなくても別にいいんじゃない…😅
平松さんは『エヴァ』シリーズにもメインスタッフとして関わっているし、そこら辺が本作のエヴァっぽさに拍車をかけているのかも知れない。
とまぁ事程左様に、めちゃくちゃ既視感のある設定と物語である。
驚いたのは本作が宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』(2023)にも近似していたこと。公開時期的に考えてもこれは偶然の一致なのだとは思うが、間が悪いというかなんというか…。
とにかく、日本のアニメやゲームはセカイ系が大好き。40年近く、手を替え品を替え描かれ続けてきたセカイ系であるが、さすがにもう出尽くした感が強い。出涸らしとも言えるセカイ系というジャンルで、なかなか目を見張るようなセンス・オブ・ワンダーを生み出すのは難しいのかも知れない。
少なくとも、本作においてはそういった驚きを見ることはできなかった。
話運びの鈍重さやドラマの退屈さなど問題はいくつか見られるが、一番気になるのはクライマックス。
現実から幻の世界に迷い込んだ少女・五実。彼女を現実世界に返すと世界は崩壊してしまう。世界か、それとも少女か?この選択こそが本作のキモである。うーんザ・セカイ系。
…ここがキモの筈なんだけど、結局五実を現実に返しても世界は大丈夫でした!…えっ!?
じゃあそれまでのすったもんだは、五実の失われた10年は一体なんだったのよ💦
いずれ世界は終わるけど、それは今じゃない!って、聞こえはいいけどそりゃ欺瞞に満ちてるよ。世界か少女かを選択しなきゃならないなら、選ばれなかった方の末路はちゃんと描くべき。
大体このクライマックス、登場人物それぞれの思惑があっちやこっちやに散らばりすぎていてとても飲み込みづらい。善人と悪人にきっちり分けろとは言わないけど、もう少し五実解放チームと世界崩壊阻止チームの組分けははっきりさせておいた方が良いのでは?
それにしても、世界崩壊阻止チームの層の薄さよ…。バン一台くらいだったような気がする。敵側がその戦力でクライマックスが盛り上がる訳ないだろ…🌀
本作で描かれる恋愛模様も気持ち悪すぎっ🤮
義理の姉に向かって「良いお母さんで終わらせるつもりはないからキリッ」って、それ倫理的にどうなのよ。
実の娘に向かって「正宗の心は私のものなのよ〜ん」って、それもなんか気持ち悪いし、最後に「わたしの初めての失恋だった…」と五実に呟かせるのも気持ち悪い。
この全編にわたって漂う近親相姦的な匂いは一体…?もう少し竹を割ったような少年少女の純愛劇でよかったんじゃない?
さすが新進気鋭のアニメスタジオ「MAPPA」制作なだけあって、作画のクオリティは素晴らしい。
これだけの素晴らしい技術力を用いて作るのがこんな映画じゃ、スタッフが勿体無いよ。
かなり辛口になった気がするけど、正直これはウーンな作品だと思いますよ😢
…あっ!
そういえばこの映画のタイトルにある「アリス」と「テレス」。
当然この2人が主役なんだと思っていたんだけど…。どっかに登場してたっけ?ボーッとしてる間に見逃したのかしらん?
別に製鉄所が幻を生み出していた訳じゃないし、なんかタイトルズレてるよねこれ。