「心音」アリスとテレスのまぼろし工場 ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
心音
ありがたい事に試写会にご招待いただいて先行して鑑賞しました。横長のポストカードも貰いました。
岡田麿里監督の作家性がこれでもかと爆発しており、一般ウケはしない、刺さる人に深く突き刺さる、そんな作品になっていました。自分にはブッ刺さりました。映画館を出た後の感覚がザワザワなのは初めてでした。
鉄工所の爆発により、町からも出れなくなり時間まで止まってしまった見伏町、成長できないまま歳を取れないまま時間だけ過ぎてく事にモヤモヤを抱える菊入正宗と同級生たち、そんな正宗が嫌う佐上睦美に誘われついていくと睦美とそっくりな少女がいた…という無骨な雰囲気を序盤では醸し出していました。
少年少女が抱える好きかも…好きだな…みたいな感情が世界を突き動かすという設定として物語の世界観を形作っていたのがとても良かったです。
虚構の世界から抜け出せないがために、好きという気持ちを口に出してしまったり、夢を語ってしまったり、未来への希望を持ってしまったら煙に飲み込まれてしまうという残酷なシーンもありました。ちょっと気になるなーと思ってしまっても飲み込まれるというのはある種思春期ならではの恐怖との葛藤に近いものなのかなとは思いました。
今作のキスシーン、エロさ全開のアニメではなく、少年少女が躍動する映画でここまで生々しいキスシーンは初めて見ました。2人は見た目中学生でも中身は立派な大人、それを踏まえるとこの生々しさにも納得のいくものになっていました。MAPPAこういうシーンも描けるとか無敵すぎないか…?榎木さんと上田さんの息遣いにもドキドキさせられました。
五実を現実世界へ戻すためにカーチェイスをしつつ、現実へ向かう列車に五実を乗せて、正宗と睦美は虚構の世界でも生きていることを実感する、心臓の昂り、頭から流れる血、笑いあう声、何もかもに生きてるってことを感じてる正宗たちの姿はとても美しく微笑ましかったです。大きく包みながら身近で大切なものに気づくラストはとても好みでした。
MAPPAが手がけるアニメーションはやはり美しく、壊れかけた工場の荒っぷり、夜空に浮かぶ花火のカラフルさ、虚構から見た現実の夏のギラギラさ、登場人物の表情の豊かさなどなど、このアニメーションを堪能するだけでも今作を観る価値は間違いなくあると思います。
声優陣はほとんどが本職なので、本当に安心して尚且つ激しい声合戦を堪能することができました。
上田麗奈さんの喜怒哀楽の表現っぷりがもう最高で、一気にギアを上げてキレるシーンは鳥肌物でした。榎木淳弥さんはやはり少年声が本当に似合います。等身大で悩む中学生がこれでもかと表現されていました。
久野美咲さんの言葉を喋れない五実から、徐々に言葉を覚えてきた五実の僅かな変化を声に宿しているのが凄く良かったです。
瀬戸康史さんと林遣都さんはまぁ可もなく不可もなくって感じでした。下手ではないんですが、周りのレベルが高すぎたのでちょっと浮いてしまっていたかなとは思いました。
中島みゆきさんがアニメ映画の主題歌を務めるというのは意外でしたが、これがまた映画にドンピシャで合っていて、壮大な音楽がこれでもかと作品が辿ってきた道のりを振り返らせてくれます。歌詞を見ていくと映画の情景が自然に湧き上がってきます。
賛否両論間違いなし、好きな人にはとことん刺さり、嫌いな人は拒絶反応も間違いなく出ると思います。
それでも岡田麿里節全開の怪作、今作に出会えて本当に良かったです。唯一無二の世界観、これからもずっとずっと築いていってほしいです。
「痛いってのは君といたいこと、生きるとは君と息をすること」なんでもない日々を大切に生きる少年少女のこれからに幸あれ!
鑑賞日 8/31
鑑賞時間 18:30〜20:20
座席 C-9