「民主、共和両党の選挙戦の小粒なパロディ」スイング・ステート 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
民主、共和両党の選挙戦の小粒なパロディ
スイング・ステートとは、米大統領選挙のたびに共和、民主のいずれが取るか揺れる州、激戦州を指すが、本作ではラストベルト内の工業・酪農地帯ウィスコンシン州が舞台となっている。
ここ3回の大統領選を振り返ると、この州は両党が取ったり取られたりを繰り返している。
〇2016年 オハイオ州・ウィスコンシン州・ペンシルベニア州・ミシガン州の民主党が比較的強かったいわゆるラストベルトとフロリダ州が勝敗の焦点となったが、共和党ドナルド・トランプがこれら全ての州で勝利した。
〇2020年 民主党ジョー・バイデンがミシガン州・ウィスコンシン州・ペンシルベニア州を奪還し、更に共和党の地盤である南部のアリゾナ州、ジョージア州で勝利し当選した。
〇2024年 共和党ドナルド・トランプが圧勝した。
本作はそれまで民主党が強かったのに、共和党にひっくり返されて負けた2016年大統領選の直後、民主党の選挙スタッフが巻き返しに出て、ウィスコンシン州の架空の都市の町長選を戦う姿をコミカルに描いたパロディ映画である。
ワシントンDCと田舎町のカルチャーの違いから笑わせ、次いでちっぽけな田舎町の選挙に、大掛かりな選挙運動を展開する民主党の必死さで笑わせる。
すると共和党も負けてはいられないと、腕利きの女性選挙スタッフを派遣し、両者は同じホテルの隣りあった部屋に宿泊してしのぎを削る。
いちばんの見せどころは、このライバルのいがみ合いにあり、「選挙に負けたら、1時間アソコを舐め続けなさい!」「お前こそしゃぶり続けろ!」と怒鳴り合う姿に、地元民は呆れて顔を見合わせる。
独身女性の多い地域に「町が避妊具を配布」との公約チラシをバラまいたら、そこは修道院のある地域だったとか、そのチョンボの結果、「ナン(修道女)の支持者はナン(ゼロ)だった」とか、いろいろ小ネタは仕込んでいるが…それが民主、共和の選挙戦の核心を突くパロディにまでは届いていない。
連邦議会のロビイストたちの謀略戦を描いた『女神の見えざる手』などを見た後では、こういうオママゴトではなかなか面白がれないのである。
これならいっそ、成功した実業家のイメージとは裏腹に、むしろ「お前はクビだ」のセリフが痛快なTV番組だけでのし上がったトランプとか、エリート臭がプンプンする嫌な女の典型だったヒラリーとかの実像を描いた方が、よほど面白いはずだが…ま、何人か死ぬかもしれませんww
ちなみに映画冒頭に流れるボブ・シーガー"Still The Same"は、連戦連勝のギャンブラーが昔も今も同じように勝ち続ける、という皮肉な曲である。
