「「歴史だよね」」華のスミカ Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
「歴史だよね」
横浜中華街。
外から見れば、エキゾチックな“美味しい空間”にすぎない。
しかしそこで、台湾系と大陸系(共産党系)の対立があったとは、ほとんど知られていないはずだ。
そうだったのか、と非常に興味深く観たドキュメンタリーだった。
構想から10年を要した作品だそうで、この間に亡くなった証言者もいるから、制作のタイミングとしては良かったのだろう。
1952年の「学校事件」以来、両派が分裂して、「関帝廟」のウラにある「中華学校(のちに中華学院)」と、大陸系の「山手中華学校」(“山手”と言ってもJR石川町駅の隣だが)ができたという。
興味深いのは、台湾系と大陸系のどちらの学校に行くのか、あるいは日本の学校やアメリカンスクールに転校するかの選択は、必然的な理由がなかったらしい。
要するに“思想”や“イデオロギー”の問題だったようだ。(※)
証言者は、「歴史だよね」とか、「俺は共産主義はキライだから」とかいう感じで、けっこうサバサバしており、深く悩んでいる様子がない。
((※)ただし、生臭い話には口をつぐんでいるだけで、本当は人間関係や経済面での理由を持つ人もいるのかもしれない。)
そしてそこには、“教育”が重要な役割を担っている。
例えば、「山手中華学校」で育った人間は、毛沢東を「貧しさから中国を救って、独立を成し遂げた」と称え、「オヤジのような存在」と言う。
ただ、残念ながら本作品には、監督の父親を含めて、大陸系の証言者がほとんどで、バランスを欠いている。
台湾系の証言者は、老齢の反共主義者である魏さんだけなので、「中華学院」側の意見は聞くことができない。
榎本武揚にかけて、面白い“例え話”が語られる。
北海道に逃げた江戸幕府が「北海道共和国」を樹立して独立したら、あなたはどっちにつくの? というのだ。
現代的なイデオロギー対決ではないにせよ、確かにそういう問題なのである。
4代目の「関帝廟」の再建を機に、台湾系と大陸系の和解は進んだという。
ただ、台湾人にとっては、戦前の大陸は「オールド・チャイナ」であり、自国は「台湾」であって、もはや「中国」ではないという認識のようだ。
一方で、「一つの中国」を主張する大陸系がいる。
このストーリーには、いまだ終わりが見えないのかもしれない。