リング・ワンダリングのレビュー・感想・評価
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過去と現代、漫画の世界が交錯する奇妙な映画
狼が上手く描けずに悩む漫画家志望の不細工な青年のシリアスな青春ドラマかと思ったら、鎮魂の花火大会の夜に70年前の東京大空襲で死んだ霊と遭遇、過去と現代、漫画の世界が交錯する奇妙な映画でした。
脚本・監督・プロデュース金子雅和氏がほぼ全権を手中にした作品だから強烈な作家性、自己表現の塊り、金子ワールドを実現。
海外で賞をとった様で評価は受けたようですが、こういう作家性の強い幻想劇はチンプンカンプン、何より主人公が笑顔一つ見せず終始不愛想なので感情移入できませんでした。
観客も三つの次元を一緒に彷徨う
ふだんは何も思いを致さずに生活しているが、今の生活(世の中)は、膨大な時間の積み重ねがあってこそ。
時には、ふとそのことに思いを致して、過去の次元を体感するのも悪くはないこと。
草介(笠松将)が生きている現代、ミドリ(阿部純子)と彼女の愛犬が生きていた過去、そして草介が描くニホンオオカミがまだ生息していた過去の三つの次元を、観客も違和感なく行き来できる本作は、佳作と言えると思います。評論子は。
(本作を通底するテーマのニホンオオカミのCGで締めくくりをつけた点も、評論子秀逸と思います。)
「何度も見たくなる」という他レビュアー氏の評は、評論子も同感に思います。
【”土地に刻まれた哀しき記憶を掘り起こす。そして、幻の日本狼を探して・・。”輪の様に連鎖した複層的な作品構成の秀逸さ、自然美に魅入られる作品。】
ー 金子雅和監督のトークイベントが上映後にあり、非常に興味深い話を聞けた。又、偶々ではあるが、当方が考えていた内容を監督自身が、認識しつつ作品を制作されていた事が分かり、少し嬉しかった。
尚、レビュータイトルを含め、監督のトークイベントで確認できた文言を含むレビューになっている事をご承知置き願いたい。-
◆感想<Caution! 内容に触れています。>
・絶滅した日本狼を題材に、漫画を描きながら建設現場で働く草介(笠松将)。ある日、工事現場で犬と思われる頭蓋骨を見つけ、持ち帰り、漫画を描く際に参考にし始める。
- 冒頭、茅葺野原で、草介が不思議な少年と会うシーン。日本狼を探しに来た草介に対し、少年は”日本狼は居るよ!”と言って立ち去る。
このシーンが、ラストシーンと見事に連関している。
又、劇中、草介が迷い込んだ昭和20年の東京の写真館で出会った、ミドリ(阿部純子)とその家族(安田顕、片岡礼子)とのシーンとも・・。
そして、その後草介は、一家が東京大空襲により焼け死んでしまった事を知るのである。自分のために足を捻挫したミドリに対する自責の念も含めて。ー
■”リング・ワンダリング(Ring Wandering)”とは、冬山でホワイトアウトの際に方向感覚が無くなり、同じ場所を延々と歩き回ることを言うが(2度経験したが、非常に、恐ろしいものである。)今作では、”WONDER"の意味もある。(監督ご自身が言っていたから、間違いない。嬉しい。)
ー 故に、この作品は草介が、時間を越えて昭和20年の東京に彷徨い込み、ミドリ一家と出会い、”土の中で冬眠していた泥鰌”を煮た夕食を共にし、別れる。
そして、後、同じ場所に行った際に、新しくなった写真館を訪れ、当時疎開していたミドリの弟コータ(当然、老いている。)と出会い、草介がミドリ一家と過ごした時に書いたミドリが探していた犬のシロの黄ばんだ絵を目にするのである。ー
・更に、今作は草介が描く老漁師が、日本狼を探す漫画の部分が、実写で描かれている部分も効果的である。
漁師を演じる長谷川初範(監督の前作、”アルビノの木”にも出演されていた。)と、彼が仕掛けた火薬罠のために命を落とした梢(阿部純子)との日本狼を前にした、幻想的なシーンが素晴しい。
ー 阿部純子さんが、ミドリとは全く違った幽玄な美しき姿で、梢を演じている。役によって、雰囲気をガラリと変える事のできる、稀有な女優さんである。-
・ラスト。シーンは冒頭の茅葺野原に戻る。草介の手には、現在の写真館を営むコータの娘と思われる女性から渡された古びた写真集。それをめくって行く草介の眼に飛び込んだのは、少年が草介を撮った写真であった。
更に、日本狼と書かれた茅葺野原の写真が続く。草介が”何だ、日本狼いないじゃないか・・”と言って、叢に横になり目を閉じる。
画は俯瞰したアングルに切り替わり、日本狼の顔の形の茅葺野原の真ん中で眠る草介の姿をロングで撮って終わる。
ー 見事なラストである、と私は思った。ー
<輪の様に連鎖した、複層的な作品構成の秀逸さが素晴しい作品。
又、草介の漫画を実写にした木曽山中の雪の風景も、美しい作品である。
今作は、切ないが、幽玄耽美な風合、趣も素晴らしきファンタジックな作品であると思う。>
<2022年5月8日 刈谷日劇にて鑑賞>
今、憶えて。
阿部純子ですよ。なんと言っても阿部純子。久しぶりに重要ポジションの阿部純子。安田顕をはじめとして、そこはかとなく漂う「無駄遣い感」。昭和へのタイムスリップ・ターンのわざとらしさにはシラケます。もうクオリティは最悪に近く。居心地は悪いです。
それでもですよ。
そっから持ち直して逆襲。
それが阿部純子の、あの台詞からですよ。
ファンタジーがプラットフォーム。現代と昭和、劇中劇の明治の三つの時代を扱いますが、混乱する事なく伏線回収してからのラストショットがアレ。
これは、良いかも知れません。
東京空襲のネタバレを引っ張らなかったトコでテンポを上げてからの明治時代へのワープ。間髪入れずにニホンオオカミの伏線回収に行くところとか、展開の緩急は明確に好きって言えます。
上映後、監督さんの舞台挨拶があったんですが、インターバルには昼メシを食いたかったんでパスしましたが、話を聞きたかったかも。
金子雅和監督、次回作に期待してます。と言うか、メジャー作品での登場、待ってます!
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