「興味深い”人間の探究”」英雄の証明 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
興味深い”人間の探究”
最初からなぜか男の浮かべる微笑が頭から離れない。仮出所した主人公はシャバの空気がよっぽど嬉しいのか、ずっと笑みを浮かべている。久しぶりに彼と会う婚約者もまた同じように笑みを浮かべる。彼らの過去については我々観客にもほとんど分からない。肝心の”金貨入りバッグ”を拾った経緯もしっかり回想されるわけではない。ファルハディー監督はおそらく、あえて私たちを一般市民と同じ立場に立たせ、右から左から噴出してくる主人公にまつわる噂や、それに乗っかろうとする者たち、果てにはSNSの反応を受けて、彼の印象が刻々と変わりゆく様を体感させているのだろう。その正体は一体どこにあるのか。先の微笑の存在が本心を見えにくくさせる。しかしながら、この世の中にスネに傷を持たぬ者など存在するのだろうか。英雄の証明とは、悪魔の証明と同じくらい難解なもの。騒動と混乱を経て、最後に男がたどり着く、微笑とはまた違う表情が印象的だった。
コメントする