「そばに居る事」TITANE チタン なつ F列さんの映画レビュー(感想・評価)
そばに居る事
なんだか、見てはいけないものを見ているのでは…
序盤からかなり不安になった。
後部座席に座る不気味な少女。
交通事故によりチタンを埋め込まれる。私が知らないだけでそんな手法があるのかな?うむ、とか思いながら続けていると1人の美女が歩く。キリッと髪を巻き上げ一本の鉄の棒で留める。なんとも色っぽい。
その後のセクシーダンスからのクズ男成敗。
やはりその髪留めでぶっ刺してくれる必殺仕事人ムーブが素晴らしい。人間は拒絶するが、車のライトチカチカには反応を示し車と致す。揺れる車が中で致すではなく車と致す激しさがすごくて赤いシートベルトを両手で掴むあたりうわぁってなる。
言葉らしい言葉がなく淡々と物語りは進み彼女の表情も乏しく(幼少時から無表情)アレクシアの境遇や性格がさっぱり分からない。
ただ、女性の胸に齧りついたり他の人々を惨殺していくあたりで彼女は自己中心的で殺人にも心が痛まない事も分かる。椅子で頭を殴り殺した際、その椅子に腰掛け一息付くシーンはとてもかっこいい。
そして、オイルが垂れて妊娠を確信する。
おぉ、車の子供!それはいいけど認知もしない言わばヤリ捨てなんだなぁ…とそっちのが気になる。
家と両親を焼き逃亡するも、飛行機には乗れないし既に指名手配がされている。
逃げれない!じゃあ、ちょっとこの行方不明になった子供になりすませばいんじゃない?とサラシを巻いて髪を切る。そして鼻を…この作品、結構痛いなぁ…
父親と対面の時、騙せるか?と不安になったが、DNA鑑定もなく「俺の子供なら分かる」いや、分かってないし。
パパンには「愛すべき息子が見つかった」という事実が重要で盲目的に「誰か」を愛し「誰か」のそばにいたかった。
彼の息子としての日々が始まる。
バレれば終わりの彼女は口も開かず警戒し下を向いて生活をする。膨れていくお腹。それをギリギリまで毎日締め付ける毎日。
パパンは少しずつ警戒を解くように優しく接する。
彼女はその後共に消防士として働き始める。
その場で彼女は命を助けるという行動をとる。きっとそれは初めての行為なのだろう。それを偽物のパパンのアドバイスと共に正しい方法で人を助ける。このシーンはとても好きだよ。
一度は逃げ出す。バスに乗り、女を侮蔑する男共も色目を使う女も気持ち悪い。
もう帰る所は一つしかない。でもこのまま居続けてもいいのか。彼女はいつも人を殺していたであろうかんざしを倒れているパパンの首にあてる。長い逡巡。落とすかんざし。
片方だけ剃られていた髪の毛をパパンの横で刈り落とす。「パパ」初めてかける言葉。
ついに愛を受け止めた彼女。
老いていくこの先を1人で生きる不安を抱えた男とチタンを埋め込まれ愛することが理解できず数奇な人生を歩んでいた女性が親子になった。
新しい生活の中、やっと彼女は笑顔を浮かべる。
良かったね良かったね!
元妻襲来。
きっと元妻には秒でバレてるのだろうなぁ。母親だし。
ここで母親出すのズルいなぁ。
バァン!と部屋を開けてきたらサラシを外したアレクシアが。正体をバラさないからあの妄想に生きている彼を頼んだと。
どんどん膨れていくお腹。もう臨月ではないか。
胸から乳が出てくる。
シャワーを浴びながら常に出続けるオイル。ふと、お腹がポンとなる。赤子が中から蹴ったのだ。
今まで毎日、自分の事だけを考え生き抜き、お腹の異常さに怯え一度は子宮にかんざしすら刺した彼女がお腹の子供が自分の中に生を受けそれを示した瞬間、彼女は微笑むのだ。慈愛を込めて。
そしてまた、サラシで締め付ける罪悪感にごめんね…と呟く。
全編を通して本当に彼女は言葉を発しない。
だからこそ、ボソっと放たれるそれと表情にひどく心が動揺する。
良心くんに疑われつつも消防隊の仲間にもなんとなく混ざることが出来るようになったある日、パーティで消防車の上に乗せられた瞬間彼女は過去に職としていたセクシーダンスをしてしまう。たぶんこれは条件反射なんだろうなぁ。散々車の上で踊っていたし。
消防隊ドン引き。中には食い入る様に見てる人もいて笑ったが。
パパン登場。いや、それは見れないよね。実は女って分かっていても自分の息子であると盲目になってたのにね。
同情するよ。
その後なんでかアレクシアは消防車と致す。
おっとなんでや。ここだけはツッコませていただくわ。
パパンが去って、やはり私には車くんしか…とか思ったのかな。
そして陣痛発生。
パパンは妄想の世界とのお別れを感じたのかライターで火を付ける。一方で産まれつつある生命。
そんなアレクシアを抱き寄せる。
彼女は愛を知らなさすぎなのか?人を繋ぎ止める方法は性交渉以外にわからないのか?息子からの脱却か?
父性いっぱいのパパンに襲いかかる。逃げるパパン。それはそう。
「見捨てないで!」アレクシアの初めての切実なる叫び。
初めての出産。
たくさんの愛や経験を与えてくれた彼に求める事はそばにいてくれること。彼女は出産という選択をし初めて誰かに助けを求める。
いきむ彼女を手助けしながら彼女は「息子」ではなく「アレクシア」と名前を呼んでもらう。
産声があがる。生命の誕生に笑みを浮かべるもアレクシアは息絶える。蘇生も間に合わず、ヴァンサンは背骨がきっちりメタルな赤子を抱き微笑む。
アレクシアは父親である彼に孫という存在を残した。
これから1人寂しく老ていく生活に嘆いていた彼に希望を残した。
それはかなり歪な愛で現実的ではないものの、2人の心は満たされた人生となった。
消防隊団員がイケメン揃いでびっくりした。
人殺しばかりをしていたアレクシアが命を助ける隊長の子供になる設定は良かった。良心くんがもっと絡むかと思ったけど、あのくらいでちょうどいい。