「なんと「何だ馬鹿野郎」すらない」レッド・ロケット penさんの映画レビュー(感想・評価)
なんと「何だ馬鹿野郎」すらない
自分が出演してきたポルノ映画の賞やいいねの数だけが生き甲斐で、家庭を顧みない元ポルノスター。一文なしで転がり込んだ妻と義理の母の家で、二人に嫌われながらも生活するうち、なんと娘といっても良い年齢のテイーンエージャーを彼女にして、その元彼と一悶着、そして結局は・・・・と普通の目線では最悪・最低の人生です。
でも、そこには悲壮感も後ろめたさも何もない。
自動車産業が衰退したテキサスの、しかし明るい陽の光に照らされて、とあることからの開放感に包まれながら、自転車を走らせる主人公の表情の屈託のなさと言ったらどうでしょう!
荒井忠の「なんだ馬鹿野郎」さえない。ただあっけらかんと恥も外聞もなく、「生きてるだけで儲け物」と、生を謳歌する姿がそこにある。そしてそれがまた哀しくもあり、可笑しくもあります。
アメリカの白人社会は既に中間層がなくなり、分断が進んでいると言われて久しいですが、ここで描かれている世界もその一部なのでしょう。ヒラリー対トランプの戦いでヒラリーが行った勝利宣言演説のテレビ音声がこの映画でも流れますが、その後何が起こったのか、そしてそれが何故起こったのか、この映画の物語を見た人には、言わずもがな、それがよくわかるような構成になっているように思いました。
この作品公開後に判明した最近の元大統領逮捕騒ぎ(ポルノ女優との関係の口止め問題)と、どうも話は繋がっているような気がするのは私だけではないでしょう。最低・最悪なのに何故か憎めない。偽悪者かもしれないが偽善者ではない。主人公と元大統領はそんな点で何か繋がっているような気がしてなりませんでした。
コメントする