「愛の不可能性を子供の目線で。」アネット 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
愛の不可能性を子供の目線で。
2020年。レオス・カラックス監督。二度目。毒舌コメディアンの男と人気オペラ歌手の女。住む世界が異なる二人のエンターテイナーが恋に落ちるが、不安から破滅を迎え、さらにその子(アネット)をめぐってもう一波乱が起こるという話。
音と映像のセッティング調整から始まる冒頭(May we start)と出演者や関係者がまとまって挨拶しながら消えていくエンドコール的はラストまで、映画であることの自意識に貫かれた作品。相変わらず愛の不可能性を追求しいるが、そのなかには、愛を映画化することの不可能性も含まれているのだ。
恋の悲劇もとても美しく描かれているが(この女性の役者さんを美しいと感じたのは初めて)、そこで終わらず、資本主義の搾取問題、エンタメ世界の浮薄な観客問題、子供の人権・人格問題、そして人間の孤独問題を、現代社会における局限の姿で描いている。男女はそれぞれ「深淵をのぞいてしまった男」と「何度も死ぬ女」である。コメディアンという形で世界と人間の真実を追求している男は、結局は殺人を犯すのだから罪と罰を受けるのは当然だが、オペラ歌手として成功し、子供をつくり、愛する男を持った女がどうしようもなく「何か違う」と思うとき、子供から見たエゴイズムがあるのは否定できないという意味で、女もただの被害者というわけではない。どうしようもない世界や人間の在り方を、子供の登場によって倫理的に問うことが可能になってる。愛の不可能性はより深まる。
音楽が素晴らしい効果を上げている。耳に残るリフレイン。導入と結末で映画の内と外が入り乱れ、歌が現実の世界とミュージカルの世界を橋渡ししている。
すごい映画を見た。二度目にして同じ感想。