「愛なんてどこにもない」アネット しろくまさんの映画レビュー(感想・評価)
愛なんてどこにもない
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スタンダップコメディアンのヘンリー(アダム・ドライバー)とオペラ歌手のアン(マリオン・コティヤール)は恋に落ち、やがて結婚して娘のアネットが生まれる。
こう書けば、これは愛の物語かと思うが、本作はそうではない。
ゆえに観るものは、終始、落ち着かない。
舞台でヘンリーは繰り返し「殺し」、アンは「死ぬ」。
そう、この映画は2人の恋愛が順調そうに見えるあいだも不穏だ。
ヘンリーは身勝手な男である。
落ち目になると家庭を乱し、アンを死なせる(過失致死と言ってもいい状況)。
アンは死んでも幽霊になってヘンリーにつきまとう。この執念は愛なのかと思うと、彼女にはヘンリーの前に男がいたこと(その男は、その当時は地位も実力もなく、人気者のヘンリーに乗り換えたことが示唆される)、そして、彼との子を“ヘンリーとの子”と偽っていたことが明らかになる(アンにとってもアネットが人形として描かれていることに注意)。
そう、アンのほうにも誠実さはない。
このミュージカル、愛なんてどこにもないのだ。
その2人の子が、人ではない存在(人形)として描かれるのは納得である。
ミュージカルという不自然さと、作為的な画面作りがマッチしている。
ダークな大人のファンタジーというべき作品。
アダム・ドライバー、マリオン・コーティヤールの演技、歌も見事。
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