「有村架純と森田剛の役者としてのスキルを示したサスペンスの佳作」前科者 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
有村架純と森田剛の役者としてのスキルを示したサスペンスの佳作
WOWOWがテレビドラマと連動させた企画。
ドラマは観賞済み。
原作コミックは未読。
物語は完全オリジナル…らしい。
「殺人犯でも更正できると思いますか…」
森田剛演じる仮釈放された受刑者が問う。
「はい」
有村架純演じる担当の保護司が答える。
「あなたの更生に寄り添います」
保護司は相当大変な仕事だと思う。ほとんどの場合、保護観察対象者と直に接するのは保護観察官ではなく保護司だ。非常勤の国家公務員だとはいえ、ボランティアでこの職にあたる。保護観察官を補完するための日本独自の制度らしい。
犯罪のその後を描いた物語はいくつもある。被害者遺族の物語や、元犯罪者の社会復帰の物語など…。
この映画は、保護司の視線を通して犯罪者側の犯罪後を描いているが、協力雇用主(“一条直也”桜木健一)が悪意からではなく「前科者らしい」という言葉を発したくらいで、前科者というレッテルが作用して事件が起きるわけではないので、タイトルが適していないような気はした。原作からとったタイトルを変えられないなら、テレビドラマ版のように副題を付けても良かったかな、と。
更生を誓った工藤誠(森田剛)が、保護観察期間終了を目前に道を過ってしまうのは、極めて特異な状況からだ。
彼の生い立ちも、連続殺人事件の背景も、保護司の手が届かないミステリーの設定であり、リアリティーが薄れていく。
だが、森田剛の成りきりぶりが見事なので、我々は彼の更生を願わずにはいられないのだ。
阿川佳代(有村架純)がなぜ若くして保護司になったのか。その答えは全編をとおして徐々に見えてくる。
女性保護司を偶然見かけたエピソードはドラマ版でも少し語られていた。それが直接的なきっかけとはいえ、彼女を強く保護司の道に進ませた背景には、本編で明らかになる少女時代の事件があった。
終盤でこれを佳代が工藤に話す場面、有村架純の柔らかなトーンの語りと森田剛が嗚咽する表情、二人の演技が胸を打つ。
圧倒的に主演の二人で引っ張っている映画だが、ドラマ版から続投の石橋静河と、マキタスポーツ、木村多江らがスパイスとなって映画の味を整えている。
映画的な見せ場は、工藤逮捕のシークェンスだ。張り込みの刑事たち、更正した工藤の父親(リリー・フランキー)と佳代の会話、忍び寄る兄弟、三竦みの緊迫した場面に子供達のビデオ映像を織り込んだ巧妙な構成だ。
ただ、この悲惨さを伴うアクションシークェンスでは、佳代は単なる目撃者でしかない。彼女が工藤の父親から何を学んだのか、工藤にどのように寄り添うのかということよりも、悲しい運命に操られた兄弟の不幸、はたまた実の親子の断ち切れない絆の存在を示したのか、テーマ性が希薄になってしまった気がして残念だ。
たが、クライマックスはこの後に用意されている。
工藤の復讐を阻止しようと刑事(磯村勇斗)と佳代が工藤のもとへ急ぐサスペンス。
「これ以上、被害者を増やしてはいけない!これ以上、加害者を増やしてはいけない!」佳代が叫ぶ。
そして、佳代は工藤に心から訴え、エールを送るのだ。
さて、犯罪者の更正とはどういうことなのだろうか。犯罪を犯す者には何らかの欠陥があるのだとすると、それは治療で治すことが出きると言う弁護士(木村多江)の解説には説得力があった。その病の深さにもよるとは思うが。
元殺人犯を校正させて社会復帰を支えている団体が、被害者遺族の会と意見交換を行う様子を報道したテレビ番組を観たことがある。
ある遺族の女性がその団体のお陰で立派に社会復帰している元殺人犯に言った。「あなたは過去を反省して更正したかもしれない。でもあの犯人もあなたのように反省できると思いますか」
その女性の夫の命を奪った加害者は、裁判で反省の色を示すどころか非道な態度を示したことが報道されていた。
そう投げかけられた元殺人犯の男性は言葉を失っていた。
どんな病も完治するものと不治のものがあることを思うと、犯罪者の更生(治療)にも完璧はあり得ないだろう。
しかし、結果が得られるかどうかは別として、弁護士=木村多江が語る言葉こそが理解しておかなければならないことかもしれない。
「更正という点において、残虐な殺人者であっても線引きされてはならない」
「…以上!」
コメントありがとうございました😃。まあ森田剛の描写ですと性犯罪は無いでしょうが、私でも犯しそうな「好意」の空回り、ちょっとしたセクハラ程度は行ってしまうカモですねぇ。あろうことか有村架純、食事に誘ってますし。そもそも森田剛役の実直そうな犯罪者ばかりでは無いでしょうから。そもそも男性(お爺ちゃんを除く)の出所者に若い女性の保護司割り当ては絶対100%無いと思われます。なんかコトが起きて法務省側の責任問題になるリスキーなこと役人がするわけありません。しかも有村架純役、独身ですしね。長文すみません。ありがとうございました😭😭。
kazzさん、共感&コメントありがとうございます。
犯罪者の更正は本当に難しい問題ですし、そこに向き合う方々の覚悟や矜持も並々ならぬものがあると思います。木村多江さん演じる弁護士の言葉は、それを物語っているように感じました。
会社の中でも、何年同じことを注意しても直ら(治ら)ない人がいます。
①直す気がない(聞く耳を持たない)。
②そもそも注意されている内容自体が理解できない。けど面倒くさいから一応、ハイ分かりました、と答えるが、当然何をどう直していいかが分からないので改善しない。
③他者が何をどう思うかについての想像力がない(だから自分の何をどう変えるべきかが分からない)
匙を投げるしかない、という事実があるのは残念ながら現実だと思います。
今晩は。
素晴らしきレビューを拝読させて頂きました。
「更正という点において、残虐な殺人者であっても線引きされてはならない」
今作は、難しきテーマにチャレンジし、鑑賞側に様々な事を問いかけてくる映画だとも思いましたね。では。