劇場公開日 2021年8月13日

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「日本という国の姿が凝縮された作品」東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート SSYMさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0日本という国の姿が凝縮された作品

2021年10月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

映像の力がとても強い作品だった。意図的に作品内で説明を省いているので、パンフレットは高い(1300円)が必須だと思う。解説も素晴らしいので、損はない。映像と資料、両方で「都営霞ヶ丘アパート」とは何であったのかを記憶したい。

本作で描かれるのは、まさに国家が弱者を虐げる姿である。
都営霞ヶ丘アパートの住民のほとんどは高齢者だ。都によって強制的に移住が決められ、なけなしの補償が十数万円でるが、引っ越し費用に充てても足が出るようだった。お年寄りなので、重いものの移動や機械の取り外しはできないので業者に頼むから、費用がかさむのだろう。
はした金だけ寄越して「後は自分で」という行政の投げやりな態度が見える。

住民にとって、都営霞ヶ丘アパートを出ていくことはただの引っ越しじゃない。
そこには住民たちが数十年にわたって築き上げてきたコミュニティがあった。国は、その住民たちのコミュニティを破壊したのだ。
晩年になって、こんな仕打ちを受けることになるなんて、同情するという言葉では言い尽くせないほど気の毒に思った。おそらく、離れ離れになって二度と会わないまま亡くなった人たちもいるだろう。

2021年の東京オリンピックは、コロナや関係者のスキャンダル、開催費用の高騰等、実に多くの問題を孕んでいた。だが、仮にそれらの問題がなくて、オリンピックの開催によって社会に莫大な富や人々の幸福がもたされるとしても、私はこの「都営霞ヶ丘アパート」の一件だけで、オリンピックはやるべきではなかったと言い切れる。国家が弱者を虐げることなど、絶対にあってはならないことだからだ。
国とは、弱者を守るためにあるのではないのか。現実には、逆のことが起きている。権力や金を持った強い者を優遇し、弱者はまるでそこに存在しないかのように扱う。この国は、根本のところで大きく間違った方向に行ってしまったと、映画を観て痛感せざるをえない。

本作を、オリンピック関係者はもちろん、テレビの前で競技を楽しんで観た人々にもぜひ観て欲しい。特に選手たちには、自分たちが栄光の舞台に立っている裏で、どういう人々が犠牲になっているのかを知って欲しい。知るべきだと思う。
後年に2021年の東京オリンピックを振り返る時、「都営霞ヶ丘アパート」のことを抜きにしては語れないだろう。

SSYM
aiyueniさんのコメント
2022年6月7日

今戦争で親子供が殺され戦火に逃げ惑うウクライナの人がこの映画を見たらどう思うでしょうね。色んな視点で考える事が大切ですね。

aiyueni