「ヒーロー不在をどう克服するか」ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ヒーロー不在をどう克服するか

2022年11月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 本作の主演チャドウィック・ボーズマンは2年前に急死し、当時、大統領候補だったバイデン氏が追悼メッセージを送るほど全米が悲しみに包まれました。それは本作の撮影が始まる前のこと。わたしは思わず、ポール・ウォーカーの事故死を思い起こし、本作冒頭の葬儀のシーンで涙を滲ませました。
 果たしてヒーロー不在の中、「ブラックパンサー」はどう切りぬけたのでしょうか。
 そもそもマーベル映画のヒーローたちの中でも、「ブラックパンサー」は、血沸き肉躍る土着的な魅力にあふれ、2018年の公開の前作は全米歴代5位、世界の興行収入13億ドル(約1813億円)の大ヒットを叩き出した超人気作です。
 現実社会ともシンクロして、国王とヒーローの2つの顔を持ち、漆黒のスーツで世界の悪と戦ってきた男=ブラックパンサーが突然亡くなるところから続編となる本作は始まざるを得ませんでした。しかしヒーローの死は、新たなミューズの誕生を生み、新たな歴史を生み出したのです。

 場所はワカンダ王国の王宮の研究室。国王ティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)の妹シュリ(レティーシャ・ライト)は他の研究員と共に慌ただしく何かを製作していました。
 ティ・チャラは難病に侵されており、彼を治すべくシュリは必死でハート型のハーブを精製するも、不完全な状態で完成してしまうのです。僅かな望みに賭けてティ・チャラが眠る手術室に大急ぎで向かうも、手術室から出てきた二人の母である女王ラモンダ(アンジェラ・バセット)はティ・チャラが父ティ・チャカや先祖がいる場所へ旅立った(逝去した)ことを伝え、ワカンダは悲しみに暮れ、皆彼の葬儀を執り行ったのでした。

 それから一年後。ワカンダが所有する特殊な金属ヴィブラニウムの扱いを巡る国連の会議に呼ばれたラモンダは、何者かにワカンダの支援センターが襲撃されたことを抗議し、その捕虜をワカンダの国王親衛隊"ドーラ・ミラージュ"らに連れて来させました。この事件がティ・チャラの訃報を知った加盟国の仕業であること、今後このようなことが続くなら戦争も辞さないこと、ヴィブラニウムの輸出も一切禁止すると言い、その場を後にしたのでした。

 場所は変わり大西洋のとあるプラント。そこへ降り立ったグレアム博士(レイク・ベル)は、海底に眠るヴィブラニウムの調査に向かう研究員二人を司令室から見守ります。しかし、突然研究員二人と音信不通となり、警備をしていた兵士たちは半魚人達の謎の歌声で皆海に飛び込み始めました。手薄となったプラント内に突然タロカン軍の女戦士ナモーラ(マベル・カデナ)と将軍アットゥマ(アレックス・リヴィナリ)が率いる兵士たちが襲撃するもグレアム博士は無事脱出するのでした。

 王国に戻ったラモンダは失意に陥り、研究室に籠りきりのシュリに外へドライブに出かけようと誘い、シュリは嫌がりながらも共にサバンナへ出かけた。到着した場所でラモンダはティ・チャラの為にも彼の死を忘れようと持ってきた自身の喪服を燃やし始めるが、シュリには無理だと拒絶されてしまいます。そんな時、ワカンダの国境の警備を掻い潜り、タロカンの皇帝ネイモア(テノッチ・ウエルタ・メヒア)が現れ、自分達の国が所有しているヴィブラニウムを探知する装置を開発した人物を連れてくるように依頼し、抗えばワカンダの民を皆殺しにすると警告をしてその場を去っていきました。ところがこの出会いはワカンダの存亡を賭けた大きな戦いの始まりに過ぎなかったのです。

だが国を捨てるわけにはいかない。立ち上がったのは亡き国王の妹シュリ、国王親衛隊を率いる女戦士オコエ、そして国王の母ラモンダ。さらに米国留学中の天才発明家にして重要なカギを握る女子大生リリ・ウィリアムズ(ドミニク・ソーン)という女たちのアクションシーンが熱く繰り広げられます。
 果たして国王を失った悲しみを乗り越え、どうやって次代のブラックパンサーが誕生するのか。アフリカの大自然から海底まで壮大な景色の中、胸打つドラマが展開されたのです。
 現実と同じように、悲しみを乗り越えようとする役者たちの演技に胸を打たれました。
【少しネタバレ】
 本作でワカンダと敵対することになったタロカンはかなりの強敵でした。ヴィブラニウムの力によって超文明国となったワカンダですら航空戦艦や母艦まで一撃で倒し、世界有数の戦闘力を持つ親衛隊まで圧倒してしまうのです。さらに、水を操ることに長けた彼らは、ワカンダの首都に大水害をもたらし、機能を麻痺させてしまいます。その結果ラモンダまで犠牲になってしまうのです。
 兄の国王ばかりか、母親の女王まで失ったシュリは、復讐のために決起。居場所がわからないネイモアの弱点を巧みに操り、おびき出すことに成功し、決闘に持ち込むのでした。決闘の場でシュリは、ラモンダからの教えを思い出して、自問自答します。それはネイモアに復讐することをラモンダが望むことだろうかということでした。復讐か、赦しか、本作で一番エモーショナルなシーンとして、シュリの決断が見どころでした。
 また、前半、ネイモアの招きで、海底にあるタロカン帝国にシュリが訪れるシーンも一大パノラマで、見応えたっぷりでした。
 最後に、ティ・チャラが残した隠し子に、シュリが対面するシーンでは、「ブラックパンサー」シリーズの限りない未来を感じて感動しました。どうやらアイアンマンも後継開発者の登場で復活しそうな勢いですね。

流山の小地蔵