「ブラックパンサーは死なない」ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ブラックパンサーは死なない
2020年、チャドウィック・ボウズマンの訃報はあまりにも突然で衝撃だった。
『42 世界を変えた男』などで実力を示し、『ブラックパンサー』で堂々たるスターの風格を魅せ、死後に配信された『マ・レイニーのブラックボトム』では残念ながらオスカーは逃したものの名演を披露。
人気、実力、魅力、スター性、そして勿論人柄もいいのだろう。全てを兼ね備え、ハリウッドを担う存在になるだろうと思っていた。何事も無く、そうなっていくだろうと当たり前のように思っていた。
順風満帆の矢先…。
ステージ4の癌。前作や『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『~エンドゲーム』を闘病しながら撮影していたらしく、本当に本当に頭が下がる。
本当にこの世は、時に残酷で不条理だ。
ハリウッドが、世界が、彼の死を惜しみ、悼んだが、最もショックを受けたのは彼の家族と、言うまでもない。
『ブラックパンサー』の全スタッフ/キャスト。
2018年に世界中でメガヒット。MCU初の黒人ヒーローで、民族性やオリジナリティー、テーマやメッセージも織り込み、コミック・ヒーロー映画として初のアカデミー作品賞ノミネート。
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『~エンドゲーム』を経て、続編にも期待が掛かる。
だが、突然の不幸で主役を失った…。
映画の歴史の中で、突然の不幸で大切な仲間を失った例は少なくないが…。
大抵そうなった場合、製作中止か、代役か、劇中で生存している設定だが登場はしないとか、いずれかの手段が取られる。
が、MCUからは伝えられたのは、代役を立てずに続編製作続行。
一体、どうやって…?
一切の秘密のベール。徐々に予告編などで解禁され、遂に公開された。
劇中でもブラックパンサーことティ・チャラ王が突然の病で死去。
これを描くのは、関係者皆、辛かっただろう。
しかし、向き合った。
現実世界ではチャドウィックは亡くなったけど、劇中では登場はしないけど生きている…なんてやったら、嘘を付き、現実から目を背け、受け入れていないと同じ。
悲しい。辛い。
だけど、チャドウィックはもう居ない。
それを受け止め、最大限の敬意と哀悼で、彼を称え、送り出す。
それは映画だからこそ出来る事。
“チャドウィック・フォーエバー”と共に。
彼へ捧ぐマーベル・ロゴやリアーナによるエンディングの主題歌からも。
しかし、いつまでも彼へ思いを馳せていてはいけない。
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は、世界中の人たちが待望している“映画”。
それを届け、ワクワクさせ感動させてこそ、チャドウィックへの本当の手向けになる。
その点はさすがMCU、心配は無用だった。
エンタメ性や哀悼引っ括め、MCU2番目の長尺161分を、ライアン・クーグラーが一気に見せきる。
ティ・チャラが亡くなって1年。
世界中が弱体化したであろうワカンダからヴィブラニウムを狙う動きを見せていたが、女王ラモンダは強い意思を示していた。
そんな時、海底でワカンダにしか無い筈のヴィブラニウムが発見され、アメリカは採掘を行うも、何者かの襲撃に遭う。
ワカンダ人とされ、ワカンダは窮地に立たされる…。
ヴィブラニウムを所持していたのはワカンダだけではなかった。
海底の帝国、タロカン。その王、ネイモア。
タロカンの存在とヴィブラニウムの奪取を防ぐ為、強硬手段に出る。
ネイモア王自らラモンダと王女シュリの前に赴き、警告と接触を図る。
タロカンのヴィブラニウムを探知した機器を発明した人物を消す。
ワカンダから、シュリとオコエ隊長が保護に出向く。
発明したのは何と! まだ学生の少女、リリ。
ワカンダからすれば村レベルらしいが、外の世界の者としてはなかなかの人材。
タロカン兵の襲撃。一戦交えた後、シュリとリリはタロカンへ連れ去られる。
護れなかったオコエはラモンダから職と任を解かれ…。
足に翼が生え、海も陸も空も蹂躙し、強大な力を誇る。今回の敵、ネイモア。
タロカン人は青い体色。
一瞬、『ブラックパンサー』じゃなく『アクアマン』か『アバター』を見てるのか?…と錯覚するが、ワカンダと世界の新たな強敵。
しかし、“強敵”とはどの立場に立っての意味か…?
タロカンからすれば、ワカンダや世界こそ脅威。
ワカンダにすれば、平和を脅かす存在こそ脅威。
世界にとっては、攻撃してきた国こそ敵。
一方の見方、一つの誤解や行動などで世界はいとも簡単に対立し、戦争を起こす。
某国のように、戦争は一方の傲慢にによって引き起こされる。本作製作時、渦中の侵略戦争は始まっていなかったが、戦争が起こる危うさを訴える。
シュリはタロカンで、タロカンの歴史と美しさ、ネイモアの生い立ちを知る。
決して他国を侵略し、支配下に置こうとする野蛮な独裁国でも君主でもない。
平和を望んでいる。
しかし、その平和が脅かされるなら…。
ネイモアは過去、地上人の野蛮な行為を目の当たりにしている。
ティ・チャラの国連のスピーチで、ヴィブラニウムが世界に知られる事になったと非難する。
同盟と和平の道は無いのか…?
無かった場合、ネイモアとタロカンは危険な存在を孕む…。
その危険が、いよいよ起こってしまう…。
ラモンダの命を受け、隠遁していたナキアが救出に。
その際、タロカン人が犠牲に。
怒りと悲しみのネイモアはワカンダを急襲。
防戦と混乱の中、まさかの人物が…。
報復と争いは更なる悲劇を招く。
ワカンダとタロカン。憎しみと悲しみと争いの中に陥るしかないのか…?
チャドウィックの喪失からスタートしただけに、MCU作品としては極めて重く悲しい雰囲気漂う。
が、決して、『エターナルズ』のような辛気臭い雰囲気だけじゃない。
所々、ユーモアを挟むセンスもさすが。シュリとオコエのやり取りが愉快。
そこに、来年の配信ドラマに先立って、新キャラ、“アイアンハート”ことリリ登場。トニー・スタークのアイアンマンスーツに匹敵するアーマースーツを開発した天才発明家少女。
性格は陽気。シュリとオコエとリリの掛け合いはまるでガールズ・ムービー?
勿論アクションも見もの&見せ場。
オコエら女性のみの親衛隊による槍のバトルは前作に引き続き。
リリ開発のアーマースーツはアイアンマン同様空も飛ぶ。
ネイモアのハルク並みの超人パワー。
今回海が舞台の一つでもあり、海から襲撃するタロカン人との海上バトル。
海、陸、空…前作以上のスケールのアクション。
遠隔操作でバックアップしていたシュリも実戦に立つ。
チャドウィックがもし生存していた時とは、まるで違う話になっていただろう事は明白。
敵は同じだったかもしれないが、何でも、サノスの指パッチンで消えていた5年間で変化した世界とワカンダに苦悩するティ・チャラに、新たな脅威と試練が立ち塞がる…という風になっていたとか。
ティ・チャラに代わり、その脅威と試練に立ち向かう事になったのは、シュリ。
演じたレティーシャ・ライト本人が何より驚き、プレッシャーを感じたであろう、ズバリ主演!
兄の闘いをバックアップしていたのに、実戦に立ち、アクションも披露する。
でも、最も複雑なのは、内面。
兄の死の直前、兄の病を治そうと研究に没頭していた。が、間に合わず、救えず…。
後悔と悲しみを背負い込み、ラボにずっと引きこもったまま。
ラモンダ女王とて同じ。前々王である夫に続き、息子をも早くに亡くす。
一人の妻として、一人の母として、その悲しみの心中は深い。
が、新たな君主として、悲しみに暮れるワカンダを導かなければならない。
脅威と対しなければならない。
アンジェラ・バセットが気丈さと悲しみと威厳と慈愛を演じ切る。
ティ・チャラの元恋人、ナキア。彼女はティ・チャラの葬儀に現れなかった。その理由…。
国や民にとっては国王でブラックパンサーだったが、私にとっては全てだった。
この言葉に、想いが集約されている。
本当にチャドウィックの喪失無くしてドラマもキャラ心情も語れない。
ちょっとセンチメンタル過ぎではないか?…という意見も無きにしも有らず。
前作は独自の黒人ヒーロー映画として革新的であったが、今回はやはり感情が大きく揺さぶられる。
MCU作品を見てる/見てないで評価は分かれるかもしれないが、前作以上にエモーショナルなドラマなのは事実。
予告編でも姿を見せていた、本作の肝である、あの新たなブラックパンサーは誰か…?
まあ察しは付くが、やはりしっくり来る。そうでなくちゃいけない。
でも、ヒーロー映画なんだからただ新たなスーツさえ着ればいい…なんて、そんな単純な事じゃない。
ブラックパンサーになるという事は、凄まじい使命と責任を担う。
儀式もさることながら、国、民、王位、覚悟、全てを背負う。
自分は何者か…?
自分は相応しいのか…?
兄とは違うのは明白。兄は気高かった。それに対し、自分は…。
ある復讐と闘いの為に、ブラックパンサーとなった。
ネイモアとの決着。死闘の果てに、遂に追い詰める。
トドメを刺し、復讐を果たせる。
兄の死はどうする事も出来ない病と救えなかった自分へのせいもあるが、ある人物の死は今まさに手に掛けているこの男の罪。
が…
ネイモアが自分の国や民を思っていた事に偽りはない。
ネイモアを失ったら、タロカンの国や民は…?
それは大切な人を失ったワカンダと同じ。
ネイモアの罪は憎い。
このまま復讐に駆られ、ただ憎き相手をこの手で死に至らしめるのは、同じ立場に立たされたワカンダとタロカン、自身にとって、復讐を果たし、それで何かを埋められる事が出来るのか…?
同じであっても、違う。
ブラックパンサーは復讐者ではない。
ブラックパンサーは、守護者なのだ。
それに気付いた時、真の意味で、何をすべきか。
喪失と悲しみ。脅威。
それらから立ち直り、乗り越えて。
ラストシーンに登場した思わぬ人物。
出来過ぎでいつの間に?…とも思うが、
命も思いも、引き継がれていく。受け継がれていく。
新たな、全ての思いを込めての、“ワカンダ・フォーエバー”。
ブラックパンサーは死なない。
壮大な物語に感動しました。
近大さんのいつもの調子のレビューによって作品の記憶が蘇ります。
まさにガールズムービー。
リリはなんとなくスターク社に入り、ファルコンなんかと組んで活躍しそう。妄想が広がるなぁ・・・