「愛と雷の果てに」ソー ラブ&サンダー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
愛と雷の果てに
魔術師ヒーローがマルチバースの扉を拓き、今後MCUは配信ドラマシリーズも見ておかないとついていけなくなるんじゃ?…と危惧したが、そんなややこしさとは無縁とばかりに、一石ならぬ一雷落とす。
前作『ラグナロク』(敢えて原題で)で“イメチェン”した雷神様と異才監督の陽気節は今回も健在。
一応単体前3作と『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『~エンドゲーム』辺りは抑えとかないとすんなり話には入れないかもだが、コーグがこれまでを分かり安く超簡潔に説明してくれるので大丈夫。
前作に至ってはマット・デイモンも所属のお馴染み“アスガルド演劇”で。にしても、ケイト・ブランシェットが演じたヘラをメリッサ・マッカーシーが演じるって、無理がある…。
この約11年7作の登場で、ソーほど劇的に変化したMCUヒーローはいない。アイアンマンやキャップは内面の変化はあったが、ソーは性格も作風もガラリとチェンジ。
シェイクスピア風だった当初から前作でワイティティ印のコミカル・エンタメに。『~エンドゲーム』ではブヨブヨ体型になっちゃってすっかりお笑い担当に。
『~エンドゲーム』のラストでアスガルドの王座をヴァルキリーに譲り、“ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー”と宇宙に旅立ったソーのその後。
まず、ブヨブヨ体型をシェイプアップ。
かつてのようなムキムキマッチョ体型を取り戻し、いざ闘いへ!
…否!
一応ガーディアンズと宇宙を旅して悪者退治してるけど、以前のような雷鳴轟く活躍や覇気はナシ。ある星では神聖な神殿壊しちゃったし…。
これまでの闘いの中で多くのものを失った。父王、母君、弟、仲間、そしてアスガルド…。
実は悲劇的な戦史。
闘いから遠退き、自問自答するのも無理もない。
まあ、時間を掛けてゆっくりと…なんて言ってられない敵と危機、“再会”が…!
宇宙中で神々が殺される。
襲撃されながらも生き延びたかつての仲間からの情報により敵が判明。
ゴア。“神殺し”の異名を持つ。
その脅威は地球の新アスガルドにまで…!
ガーディアンズと別れ、地球(アスガルド)に赴くソー。
ゴアは闇から魔物を造る。ゴア自身も不思議な術を使う強敵。
防戦するヴァルキリーらに交じって、ソーも参戦。
…いや、すでに“ソー”はいた。
…ん? ソー!?
あの一際超パワーを見せる“ソー”は何者…??
本作の話題の一つ。
ナタリー・ポートマン、9年ぶりにカムバック!
ソーの恋人…いや、元カノ、ジェーン。
雷神と人間の女性。種族や立場を越え、順調に愛を育んできた…と思っていたら、前作でソーの口からまさかの破局したような言及が。
一体二人に、何があった…?(実際はナタリーとマーベルの衝突による降板なのだが、それはさておき)
二人一緒の将来を見据えていたが、ソーはヒーローとしての活躍が忙しくなり、ジェーンは学者としての仕事が忙しくなり…まあ、カップルの間でよくある話。
どっちがフッたフラれたかは言い出したらキリ無いが、ソーの元にポツンと別れの置き手紙…。未練引き摺るソーはご存じの通り。
一方のジェーン。本も出し、学者として忙しく生活していたある日、病が発覚。しかも、ステージ4のガン…。
愛に別れを告げ、仕事に生きようとしていた矢先…。呪いたくなるほど無情で、哀しい。
現代の医療や科学を以てしても無理。何か、魔法のような奇跡的な力でないと…。
そんな時、何かが私を呼んでいるような声。
導かれるまま辿り着いたのが、アスガルド。呼ぶ声は、粉々になったソーの元愛武器“ムジョルニア”。
それに触れた途端…
ナタリー/ジェーンのカムバックは単なるカムバックではない。
パワーアップ!…いや、新生!
ムジョルニアの力によって、ジェーンが“新ソー”に!
これは原作通りなのかどうか分からないが、思いきった事をしたもんだ。
ナタリーの腕の太さを見よ! あの『レオン』の女の子が筋肉ウーマンになったもんだ。
アクション映画への出演はあるものの、ここまで肉体改造して挑んだパワフル・アクションは初めてではなかろうか。
一度はシリーズを去ったかと思われたナタリーのカムバックが単純に嬉しい。
続投ワイティティのエンタメ手腕、クリスやナタリーの痛快活躍は勿論の事、ドラマ部分も決して疎かになっていない。
その重石となっているのが、ゴア。
不気味で強烈なインパクトを放つゴアだが、端から悪ではなかった。
元々は信心深かった。神を崇め、信じていた。
が、故郷の星は災害や飢饉で荒廃。ゴアにとって最大の悲しみは、愛娘を失った事。
信じていた神は憐れみを見せるどころか、自己チュー暴言の“クソ神”だった。
怒りに震えるゴア。神を殺せる剣“ネクロソード”に選ばれ、誓った。
全ての神々を殺す、と…。
復讐に取り憑かれた男だが、単なる凶悪ヴィランではなく、彼に感情移入出来るようなキャラ作りになっている。
言い分や動機も分からんでもない。信じていた神があんなクソ野郎だったら、誰だって神を否定し、嫌悪する。
そんな狂気と悲しみを、ヴィランとして10年ぶりにヒーロー映画に復帰したクリスチャン・ベールが演じる。
メイクも強烈だが、やはりベールの演技力による存在感。
神とは?…も本作の主題の一つではなかろうか。
ゴアの復讐のきっかけもそうだが、ゴアにさらわれたアスガルドの子供たちを救出する為、チームを募ろうと神々の国へ。
全知全能の神王ゼウス。どんなに威厳たっぷりかと思いきや、とんだ堕落野郎。ただブクブク肥満体型の偉そうな中年親父。(ラッセル・クロウは楽しそうに演じているけど)
他の神々も然り。小籠包の神だけはキュートだったけど。
一応このシーン、コミカルなシーンになってるけど、神は何の為にいるのか、その存在意義、我々は神をどう見るのか、皮肉や風刺を感じた。
エンディング後のオマケ映像から推測するに、神々との対立や闘いが今後の『ソー』シリーズの軸になっていきそうな…。
さて、お堅い話はここまでにして、本作はワイティティ印のエンタメ。とことん明るく、楽しく、楽曲の使い方やテンポもノリノリ。
迫力アクションや雷鳴轟くCGは、これぞソー!
終盤の闇の星での闘いは色が失われ、モノクロに。画的にもセンスを感じた。
キャラたちの掛け合いはコミカル。完全コメディ。
個人的に一番の笑いツボは、山羊(笑)
再会したソーとジェーンのビミョーな関係であると同時に、本作はソーとムジョルニアとストームブレイカーの三角関係でもある。ムジョルニアは今やジェーンのもの。ムジョルニアに未練タラタラのソー。そんなソーに嫉妬(いや、殺気…?)するストームブレイカー。
ソーと斧の関係からも目が離せない!(笑)
ラスト、まさかの別れ。せっかくカムバックを果たしたと思ったのに…。でも、一つの区切りのようにも感じた。
闘いの果て。ゴアは復讐より愛を選んだ。ソーも闘いより残された愛を選んだ。
これまでのようにただ敵と闘って勝つとは違う、優しさを感じた。
それこそソーの本分。愛に生きる漢。
ラストシーンの“二人”。悲しい別れはあったものの、新たなヒーロー伝説の始まり。
愛をこの胸に、雷鳴轟かせて。
まさしく、ラブ&サンダー!