「いや、これはおかしい...。」ソー ラブ&サンダー スカポンタン・バイクさんの映画レビュー(感想・評価)
いや、これはおかしい...。
「リコリスピザ」「エルヴィス」と、7月は序盤から傑作に恵まれたというのも勿論あったのですが、これはおかしい。こんなにおかしいと思ったのはヒーロー映画だと「ダークナイトライジング」以来ではないだろうか。
勿論良かった所もある。私は原色とか鮮やかな色合いを好む傾向があるので、タイカ・ワイティティ監督以降の色調の強い感じは好みです。デューンに少しは見習ってほしいくらい。アクションシーンも、ハンマーの使い方とか目新しい所もあり、シーンとして楽しい所は勿論あります。好みが分かれているそうですが、序盤の「ソー/ラグナロク」劇場は可愛くて好きでした。丁度前作の内容を忘れていたのもあって、親切設計だなぁと思いました。
しかし、お話はあまりに雑ではないだろうか?
根本的に語りたいテーマがいくつかあって、それらが描写として全然上手く機能していないというか、はっきり言って雑である。
テーマとしては、「愛の大切さ」「復讐は良くない」「運命(神様)の理不尽さとその中でどう生きるか」みたいな所でしょうか?パンフで監督が「中年の危機」というテーマを話してるそうですが、それは全然感じなかったですね。
分かりやすい所で「復讐は良くない」という所がおかしいポイントであるのですが、これは正に今作で人気キャラであろうクリスチャン・ベールのこと。彼は冒頭から神の怠慢によって娘を失った男として描かれており、その怠慢さに怒り、神々への復讐を誓うわけです。これが最終的に「良くない」「本当の望みはそうじゃないだろ?」みたいな終着点に行き着くわけですが、これがよく分からない。というのも、神殺しが良くないといいますが、何故ダメなのかよく分からないからです。実際、冒頭以降に出てくる神様にもロクな奴らはいないので、「殺されても仕方ない」と思ってしまうのです。じゃあ、あれだ。「人殺しは良くない」のと一緒で倫理的な問題があるんだと思って観ると、中盤にソーが憧れの神ゼウスを恨みで殺すというシーンが肯定的に出てきてしまうため、「じゃあなんでクリスチャンベールはダメなんだよ!?」となってしまいました。これはドクター・ストレンジ2でワンダが言っていた「何で私がやると悪者であんたがやるとヒーロー扱いなの?」というヒーロー擁護の理不尽さへの問いかけに対して、見事に悪い形で応えてしまっていると思いました。
そして、おそらく今回一番大事であっただろう「限りある命を大切に」なテーマですが、これはもう最後のドラゴンボールな展開で台無しとしかいいようがない。蘇るのがアリだったら、みんな蘇ればよくなっちゃうじゃん!「それでジェーン蘇らせれば?」となってしまい、凄い限りある人生の重さが軽くなった瞬間でした。
他にも単純にツッコミどころのある脚本ではありますが、これ以上書いてると頭痛が再発しそうなので、この辺で辞めておきます。
映画館で観ることはそんなにオススメしないですね。アクションを楽しむというだけで良いなら「トップガン/マーヴェリック」の方がライドものとしての楽しさに溢れているので、行っていない人にはそっちの方を勧めます。
個人的には、今作が「ガーディアンズオブギャラクシー Vol.3」には全然影響しなさそうと分かったのは良かったと思いました。
では、また。