「程よく脂の乗ったリッチー×ステイサムのB級グルメ」キャッシュトラック 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
程よく脂の乗ったリッチー×ステイサムのB級グルメ
ジェイソン・ステイサムのベストパートナーと言えば?
スタローン? 彼とは師弟関係。
ドウェイン? 彼とはライバル。
一人いる。長い付き合いのパートナーが。
ガイ・リッチー。
ステイサムが水泳の飛び込み選手だったのは有名な話。イギリス代表としてオリンピックに出た事も。
引退し、モデル活動をしていた時、映画の世界へ導いたのが、リッチー。
共に『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』でデビュー。その後、『スナッチ』『リボルバー』でもタッグ。
時にコミカルに、時にシリアスに、代名詞とも言える漢臭い“ステイサム像”を確立させたのは、リッチーと言っても過言ではない。俳優としての才能と魅力を見出だしたと言えよう。
今回、16年ぶり4度目のタッグ。
『シャーロック・ホームズ』や『アラジン』など、大作も手掛けるヒットメイカーとなったリッチー。
当代きってのアクション・スターとなったステイサム。
そんな二人の16年ぶり4度目のタッグ作としては、意外や小品。ありふれていると言えばありふれている、B級的題材のクライム・アクション。
2003年のフレンチ・ノワール『ブルー・レクイエム』のリメイク。
オリジナルはその昔、見た事あるような無いような。
基本的な設定以外大胆アレンジされているらしく、一本のリッチー×ステイサム・アクションとして鑑賞。
大企業の現金輸送を担うある警備会社。
先日強盗集団に襲撃され、犠牲者も。
その欠員補助として、別の警備会社に勤めていた経験ある男を採用する。
警備会社の皆さん、安心して下さい。だって、ステイサム兄貴ですよ。これで鬼に金棒。
…と、思ったら、
パトリック・ヒルという名から、“H”と呼ばれる事に。
入社試験はギリギリ合格ライン。
人付き合いは“上手”で、気に入られた相手には気に入られるが、ソリが合わない相手からは因縁。
無口で、仕事は真面目にこなす。
何の変哲もない“新入り”。
そんなある日、担当車が強盗集団の襲撃に遭う。悪夢再び…。
ボスのブレットは人質に取られ、散々嫌味言ってきた同僚はパニックビビり腰…。
絶体絶命。“新入り”も緊急時の規則に従って、大人しく…しなかった!
単身で強盗集団に立ち向かう。
強盗集団を一人一人、射殺。入社試験の成績が嘘のように、百発百中。
それ以上に驚きなのは、その度胸。銃をもった強盗集団相手には、冷静沈着。何の躊躇も無く殺していく。
金を守り、同僚の命も救った。
最初は頼りなさげと思いきや、ここぞという時はメッチャ頼りになる。
“H”は、ヒーロー。
ね、言ったでしょ? 彼がいれば鬼に金棒って。
にしても、彼は何者…?
“普通の人”ではない…。
事件後、FBIが事情を聞き取り調査に。その場ではやり過ごしたが、FBIは彼の事を知ってるような…? 上役も“見逃せ”と指示。
同僚の間でも彼の活躍を英雄視する一方、怪訝する者も。
それが決定的になったのは、2度目の襲撃時。
前回の奴らより手慣れた集団。今度こそ危うし!…と思った時、信じられない事が。
Hの顔を見た途端、強盗集団は退散。
そりゃあステイサムだもの…じゃなくて、本当に彼は何者…??
元軍人? それとも、関わってはならない筋の…?
そんな“普通じゃない”男が、何故こんな警備会社に…?
そのHも、社内で何かを調べているような…。
もっとバリバリのステイサム・アクションかと思ったら、前半はスリリングな襲撃シーンもあるものの、男への謎が深まるミステリー風。
中盤は時間軸を交錯させながら、男の正体と目的が明らかになる…。
Hが入社する直前に起きた、犠牲者も出た襲撃事件。ちなみに、作品の冒頭シーン。
警備員だけではなく、一般人にも犠牲者が出た。
一人の少年。
父親が数分、場を離れた間に…。強盗集団の一人に射殺された。
父親も銃弾を食らうが、瀕死の状態から奇跡的…いや、執念で回復。
息子を殺した奴の顔は、この瞼にくっきり焼き付いている。
見つけ出して、この手で殺す。
そう復讐を誓った父親。
その父親こそ、H。
本名は、メイソン・ハーグリーヴズ。
やはり、“普通の人”ではなかった。
FBIが25年追い続けているギャングのボスであった…!
そう、怒らせたらヤベー男を怒らせてしまったのだ。
部下やあの手この手のツテ、裏で密かに繋がりあるベテランFBIエージェントの情報を頼りに、憎き息子殺しを探す。
ちなみに、Hの顔を見て退散した2度目の集団は、ボス不在でも仕事を続けていた部下たちであった。
手掛かりを得る為に、経歴を完璧に詐称して、警備会社に潜入。
強盗集団と繋がりある“内通者”の存在が…。
Hの敵である強盗集団の正体。
元特殊部隊員たち。
退屈さに飽き飽きし、刺激と金を求めての犯行。
入念な計画を立てる冷静沈着な元軍曹のボス。
部下は皆命令に忠実だが、一人問題児が。時々暴走する。金への執着も人一倍。この男こそ、Hの息子を殺した真の敵。
全米で最も現金が動くと言われる“ブラック・フライデー”。
会社に集まる1億8000万ドルの大金を狙い、練りに練った計画と“内通者”の協力で、襲撃開始。
“内通者”は思わぬ人物。
襲撃は首尾よく進行。あっという間に会社に侵入し、押さえられる。
現金も奴らの手中に…。
“内通者”の釘刺しで手も足も出ないH。
が、一瞬の隙を付いて、遂に反撃…!
クライマックスは激しい銃撃や逃走の怒涛のアクションの連続。
死闘を繰り広げる警備員たちと強盗集団。
命懸けの反撃で強盗集団に対していくが、警備員たちにも無情に犠牲者が…。殺され過ぎじゃね?…ってくらい一人また一人殺されていく…。
緊迫した戦況の中、Hは敵を発見。
が、深手を負い、追跡不能。
“内通者”は同僚を裏切り、奴らと共に逃走。何て奴!(怒)
警察やSWATの追っ手を振り切り、まんまと行方をくらます。
Hの復讐も負け…?
時間軸を交錯させたミステリー×クライム・アクション以外、いつものようなリッチー節は控え目。
スタイリッシュな映像、洒落たセンス、ユーモアもほとんど無く、一貫してシリアス。
70年代~80年代を彷彿させるようなハード劇。
今回は職人に徹した演出。
ジョシュ・ハートネットは嫌味な殺され役。
アンディ・ガルシアも最初気付かなかった。FBIエージェントより彼こそギャングのボスってくらい貫禄あり過ぎ…。
無駄に贅沢なキャスティング。
ホルト・マッキャラニー、ジェフリー・ドノヴァンはなかなか旨味あり。
スコット・イーストウッドがHの敵役として、危険な雰囲気漂わせる。
仲間も“内通者”も殺し、金を一人占めした敵の男。
が、彼を待ち受けていたのは、密かに金の入ったバッグに携帯電話を忍ばせ、居所を突き止めたH!
息子の検死報告書を見せながら、復讐の弾丸をぶっ放す!
ミステリアスな素性。
いよいよ明らかになった恐ろしさ。
悲しみと怒りを滲ませた漢の姿。
ステイサムの男臭い魅力とカッコ良さが存分に発揮!
特別優れた出来でもなく、大作でもない。
程よく楽しめる娯楽活劇。
人気監督&アクション・スターになったからとは言え、リッチー×ステイサムのB級グルメ味が美味しい。