「本当に心の中を語ろうとしないのは誰なのか、を考えさせる一作」こちらあみ子 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
本当に心の中を語ろうとしないのは誰なのか、を考えさせる一作
たまたま鑑賞した回が、監督や主演俳優の舞台挨拶込みだった、という幸運に恵まれた本作。子供達の生き生きとした姿が印象的な作品でしたが、撮影現場もまったくその通りだったようで、楽しそうに撮影の思い出を語る若い俳優達と、ちょっととぼけた感じでコメントする監督がとても印象的でした。
本作が劇場長編映画の初監督作品となるという森井勇佑監督ですが、そうは思えないような入念な物語構成と計算され尽くされた撮影、そしてテンポの良い編集など、舞台挨拶の穏やかな印象とは異なって、映画に対する強い熱意と愛情、そして経験の厚みが伝わってきました。
劇中ではあまり具体的には言及されていないのですが、主人公あみ子(大沢一菜)は生まれつき、あまり他者との意思疎通ができないようで、家族もあみ子に優しく接しつつ、あみ子の言動に振り回されることに疲労している様子です。学校では級友たちからも「変わった子」と見なされ、友達の輪に加えてもらえない様子ですが、あみ子は周囲の反応をそれほど気にしている様子は見られません。
だがある大きな事件がきっかけで、家族の軋轢が増していきます。実はあみ子は他者に対して共感することは難しくとも、どのような状況にあっても自らの考えについては包み隠さず、率直に伝えていることが分かってきます。一方で、あみ子よりも「正常」と考えている家族の側は、自分の気持ちを正直に周囲に話していたかというと…。しかし正直なあみ子が幸せになっていくのかというと…、と物語は決して期待したような方向に進まず、非常に印象的な着地点を見せます。
あみ子の想像と現実の狹間があいまいになっていく場面、あみ子と真っ正面から向かいあって対話を重ねていくある友人の表情、会話の内容がいつまでも印象に残りました。