「これが才能というものなのか」逆光 よしえさんの映画レビュー(感想・評価)
これが才能というものなのか
70年代の尾道が舞台になっているが、尾道で撮影を行うことによって当時の雰囲気が見事に再現されているのが素晴らしい。また、吉岡が海に飛び込むシーンでの水中の描写や、晃が吉岡に氷枕を届けるシーンでの蚊帳をめくるあたりのそこはかとなく淫靡な様子など、カメラワークや画作りにこだわりぬいたと思われるあたりに非凡さを感じた。失礼ながら20代の俳優が主役を演じつつ初めて監督した作品とは思えないほどの映像美だった。
また、抑制した描写でありながらも見るものに情感がありありと伝わってくるあたりなど、脚本と演出が見事に噛み合っていて、これも実に良い。
作中でガジェットとして扱われる三島由紀夫や、頻繁に出てくる喫煙描写、あるいは学生運動の尻尾を感じさせるシーンなど、時代を示唆する演出も見事。70年代の熱気と、晃の吉岡への密やかな想いとが、良い対比になっている。あの時代を生きた者にしかわからないと思っていたあの空気感を、若い監督がどう吸収し消化して再現したのか。これが才能というものなのか。
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