「音楽が世界を変えた瞬間だったのかも」サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時) kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)
音楽が世界を変えた瞬間だったのかも
ハーレム・カルチュラル・フェスティバルの存在は全く知らなかった。1969年という時期に開催されたから、どうしてもウッドストックと比較してしまう。ウッドストックはラブ&ピースなヒッピーのためのフェスという印象だが、ハーレム〜は黒人のためのフェスと言える。しかも映画を観るとただの音楽フェスではないことがわかる。MCこそ平和的で中立なことを言っていたが、出演するアーティストたちは口々に黒人の団結や白人社会に対抗する重要性を説いていた。黒人たちが自分たちを誇り、結束し、白人からの暴力や差別と闘うためのイベントだったということ。それなのに政治集会のような重苦しさはなく、あんなにピースフルな雰囲気になるのか。ウッドストックも反戦って言葉が飛び交っていたような気がするが、ファッションで使われていた感じがする。重みが違う。その違いについて考えさせられた。
フェスで演奏された音楽はブルースやジャズや民族音楽やラテンやソウルやポップスやゴスペル等、かなりバラエティに富んだもの。でも黒人のための音楽という意味で一貫していた。どれも素晴らしい演奏だったし、観客と一緒になって盛り上がる感じもよかった。スティービー・ワンダー、ニーナ・シモン、スライ・アンド・ザ・ファミリーストーンあたりが印象に残った演奏。マヘリア・ジャクソンもよかったけどね。演奏するアーティストも観ていた観客たちもキラキラしていて本当に美しかった。
でも、このドキュメンタリーの真の魅力は、ライブ演奏ではない。このフェスの背景や出演者・観客の回想をうまく織り交ぜていくことで、その時代にあのフェスを体感したかのように演出する構成がよかった。ベトナム戦争や月面着陸、マルコムXとキング牧師の暗殺といった社会的な背景だけじゃなくて、当時のミュージックシーンなんかも語られていてとても面白かった。あぁ、この時代は音楽が本当に世界を変えていたのかもしれない。
ちなみに久々に観たシーラEのことも触れたいが、話がブレるので割愛しておく。