「【失って悲しいと思うもの】」スーパーノヴァ ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【失って悲しいと思うもの】
上映館は多くないみたいだけど、多くの人に観てほしいと思った。
「失って悲しいと思うものは、良いものということ」
もし、それさえも忘れてしまうのであれば、もっと悲しいだろう。
忘れることも、忘れられることも、怖いし、そして悲しいのだ。
この作品は、こうした状況を巡る、サムとタスカのやり取りが切なく、しかし、とても暖かい。
エンディングでサムが弾く「愛の挨拶」は、エルガーが妻に送った曲だ。
イギリスが舞台の作品であることもあって、エルガーがチョイスされたと思うが、エルガーと妻が、階級(エルガーが庶民)、宗教(カトリックとプロテスタント)、年齢(エルガーが相当年下)を乗り越えて結ばれたことも、サムとタスカに重なるところがあるのだと感じる。
ただ、この作品には、こうしたノン・バイナリーについてあれこれ考えるところは、ほとんどない。
2人の愛し、信頼し合う関係が、あまりにも自然に感じられるからだ。
記憶が無くなっていくというストーリーが、そうさせていると考える人もいると思う。
しかし、僕は、コリン・ファースとスタンリー・トゥッチの演技が、僕達を終始2人の心の揺らぎに釘付けにし、他の考えを寄せ付けないようしているのだと思う。
認知症という物語の背景はありつつも、ジェンダー云々のカテゴリーを超えた、人が人を愛するというところにフォーカスし、葛藤を深く表現した秀作だと思う。
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