草の響きのレビュー・感想・評価
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東出昌大が走ったコロナ禍の函館 奈緒の献身的な寄り添い方に唸る
初号試写で鑑賞。佐藤泰志原作の映画化は5本目。シネマアイリスの菅原和博代表にとっても節目の作品といえよう。決して派手な作品ではないうえに、観光都市・函館もコロナ禍で大打撃を受けた。製作が困難を極めたのは言うまでもない。
そんな人気の少ない函館の街を、黙々と走る男。心の病を患った和雄が、治療の一環として街を走るなかで、若者たちとの出会い、ささやかな触れ合いが心の平穏を緩やかに取り戻していくさまを東出昌大は根気強く和雄に寄り添いながら演じている。
そして更に、その和雄に文字通り寄り添いながら献身的に支える妻に扮した奈緒の説得力が、今作の特筆すべき点といえる。今年も公開作品が7本と既に売れっ子といえるが、今後さらに作品数が増えていくのではないかと感じさせられる演技だった。
難しい役を
治療困難な精神疾患を題材にした超難解作品
「そこのみにて光輝く」「きみの鳥はうたえる」と同じ作家の作品のようだ。
彼特有の世界観は、起承転結のない純文学そのものだ。
この作品もまた非常に難解だが、見ることのできない人間の心を言動描写として表現している。
同時に「他人の気持ちに触れやしないよね」というヒロトのセリフがこの作品全体を覆っている。つまり、「それは当然だ」ということだろう。わからなくてもいいのだと思う。
作品は群像的だ。
ジュンコが出会った犬猫好きな少女はヒロトの姉のメグミで、彼女は「持たない者」で「持つ者」に夢や憧れを抱いている。
ジュンコは彼女から見て「持つ者」だが、一番大切な夫のカズオを見捨てる決断をした。
ジュンコは3度カズオに問いかける。「私が重荷になってない?」
表面上否定するカズオ。正月に実家に帰ったときに父との会話に切り込んだジュンコ。「カズ君は幸せなの?」首を横に振るカズオ。彼の本心を知った。
そして隔離病棟で「なんでこうなったの、私たち?」 妻の手を握って「ごめん、自分のことばっかりしか考えられなくて」と涙を流したカズオ。女の子の名前を考えようとしない彼に踏ん切りをつけた瞬間だったのだろう。
東京に向かう車の中で函館の街には現れないというキタキツネをとうとう見るが、それは彼女が思う生き方を選択できたご褒美だったのだろう。一番大事だと思っていたものを捨てることで得られる「普通である幸せ」を選択できた喜びの象徴だ。
この作品のテーマは「持つ者」と「持たない者」と「幸せ」とは何かについて視聴者に問うていると思った。
ケンジも「持たない者」で、親友の家族や生まれてくる赤ちゃんのことをうらやましく思っているが、「持つ者」である主人公カズオは、独身で自由なケンジの方が幸せだと思っている。
同時に、頭がよくてスケボーができて一流大学を目指せるアキラを、ヒロトは羨ましく思う。
冒頭登場するアキラのスケボー技術は高いが、坂道をを滑走する彼の行為は非常に危ない。アキラは基本的に他人の生き方に興味などなく、恐怖に挑戦することで自分が生きているという実感を得ていたのかもしれない。
ある日、カズオのジョギングを見て一緒に走り始めたアキラ。ヒロトも慌てて着いて行く。それは、アキラがカズオに共鳴したからだろう。この二人は群像だ。
ヒロトはアキラに高校中退をほのめかすが、アキラはヒロトのことに干渉しないと言う。ヒロトはアキラの無関心さに腹を立て、何か言って欲しかったんだと叫ぶが、アキラはそれを無視する。アキラはその後同級生たちとの会話の中で登場した7メートルの岩から飛び込み死んでしまう。
途中からジョギングに参加しなくなったアキラが気になるカズオ。
ヒロトから彼の死を告げられ、カズオはまた深い心の闇の中に落ちていく。
カズオはおそらくアキラの死に深い共感を感じていたのだろう。同時に感じる自分という人間の喪失。
ジュンコの話した「世界一幸せな洗濯」とは、「世界一幸せな選択」という意味ではないのか?
彼女自身がその選択をした。最後に病院の外へ出て走り出すカズオは、ジュンコの選択を知らないが、その感覚をどこか無意識の領域で受け取り、ようやく自由になった解放感に満ちあふれたのではないだろうか?
人はみな持ってるものをどうしても手放さないようにして生きているが、手放してしまった方が楽になることもあると、この作品は伝えているように感じた。
この考え方こそ新しい時代の新しい考え方としてこの作品は提供しているのだろう。
このような難解な作品は妄想することでしか理解できない。
不完全燃焼
ミニシアターでぽつりと放映されていた作品。VODでもおすすめ。
今年214本目(合計865本目/今月(2023年6月度)39本目)。
ミニシアターで日替わり的に過去の高評価作品を放映している映画館に行ってきました。
もとは北海道の小さいシアターが発の映画なのですね。
心に病を抱えた男性がいわゆる運動療法(実際には走り続けるだけですが…)をする中で、いろいろな人と出会って…という趣旨のお話です。ミニシアター発という事情もあるので、どうしても聞き取りづらい等の論点が生じるのは仕方がないところです(なので、映画館とは別にVODでも見て何度か確認した部分はあります)。
良かった点としては、いわゆる「精神の病」について、肯定的にも否定的にも断定的な描写がなかった点で、ここはやはり悩んでいる当事者もいますので、配慮があった点としては良かったところです。
ただその裏返しがちょうど「良くない点」で、結局、「走り続けて何の療法になるの?」(換言すれば、「具体的に」何の病気?)という点も微妙にぼかされているので(心の病を発症した理由についても描写があいまい?)、この点はうーん、というところです。
また、上記の通り、北海道の小さいミニシアター発という事情ではあるところ、北海道文化について触れているところが少なかった点は残念でした(実はちらっと写っている?)。
ただ、映画では「よほどの自信」があるのでなければ通常避けられるこのような話題をテーマとして扱った点は理解でき、この点については考慮しています。また、北海道のミニシアターから映画ができたということでもあり、そのミニシアターのパワーにも驚くばかりです。
※ 配給は「函館シネマアイリス」なのですが、函館ではアイリスは咲くんでしょうか?
個々気になった点として以下をあげておきます。
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(減点0.3/丸太を勝手に持って行ったり、メルカリに売るだの何だの)
・ これらについて即時取得が成立するか(192条)も微妙ですが、メルカリに売るだの何だのは、メルカリにせよヤフオクにせよ、結局、民法がいう「競売もしくは公の市場」にあたるところなので、真の所有者(条文上は「被害者または遺失者」)は面倒なことに巻き込まれます。この部分は結構解釈が微妙で(193条、194条は解釈について学説上の争いがあります)、しかもメルカリでもヤフオクでも話に一切出てこないので、この部分はいらないかなぁ…と思えました(実際そのような展開には飛ばないが、ストーリーの中で出てくると、さっと頭の中で条文を持ってきて待ち構えるところ、実は「言うだけで実行しない」というパターンでした)。
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本名高添奈緒
初鑑賞
原作未読
原作は『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』『オーバー・フェンス』『きみの鳥はうたえる』『夜、鳥たちが啼く』の佐藤泰志
斎藤久志監督作品初鑑賞
加瀬仁美脚本作品初鑑賞
亡くなってから評価が高まった佐藤泰志
軒並み映画化されている
主人公が走る映画といえば三浦春馬主演の『奈緒子』を思い出すがこの作品の主人公な走る目的は違う
舞台が函館といえば宮﨑あおい主演『パコダテ人』だがそんなファンタジックなコメディー映画とはまるで違う
若者3人はどう見てもこの作品にいらないと当初は思えた
なんだよこの連中は
なんで東出昌大の映画なのにこいつらにスポットライト当ててんの
不思議なことに見終わってみるとやっぱり必要だったのかなと思えた
そういうのも含めて北野武監督の『あの夏、いちばん静かな海』と雰囲気がなんとなくだが似ているような気がした
共通点は描かれた舞台が海に近いだけで内容は全く違うのがだが
なぜそう感じたのか自分でもよくわからない
工藤夫婦は黒い犬を飼っている
名前はニコニコの「ニコ」
ニコちゃんだとニコちゃん大王を思い出す
自分も犬も猫も好きだが犬の種類は詳しくない
和雄の親には「和雄さん」といい和雄の親の前で和雄に「和くん」と話しかける純子
そういうのも含めて奈緒がこの役にピッタリ
ところが原作にはこのキャラがないそうだ
剣戟スターが悪者をやっつける時代劇には花を添える形で丘さとみや櫻町弘子らがいた
映画やドラマにも彼女のような存在が必要なのだ
それを思うと奈緒はとても素敵だ
若者3人も妻も必要
『スーパーマリオ64』をやりたくてニンテンドー64を買ったのだが最初はどう見てもいらないものがあった
しばらくしたら必要だったとテレビCMで教えてくれた
世の中にはわりとたくさんそんなことがある
東出昌大だって必要
大根と評する者もいるが全然わかってない
将来性がない三流週刊誌のヘボライターじゃあるまいしちゃんちゃらおかしい
精神疾患の役が似合っていた
『寄生獣』も良かった
『コンフィデンスマンjp』の3人組にボクチャンは欠かせない
ヤフーニュースで憶測記事や切り取り記事を賑わす愚にもつかないくだらない連中もやっぱり必要だったと思える日が来るんだろうか
走る和雄の後ろで3人がはしゃぐシーン好き
ニコを乗せ車を運転する純子がキタキツネを見つけるシーン好き
眠くなる人もいるかもしれない
僕は眠くならなかったけど
わりと良かった
配役
自律神経失調症を患い東京の会社を辞め地元の函館に引っ越しジョギングで治療に励み食器洗いのバイトを始める工藤和雄に東出昌大
妻として和雄を支え函館山ロープウェイのガイドで生計を立てる工藤純子に奈緒
函館の英語教師で和雄の高校時代の同級生だった佐久間研二に大東駿介
親しくなった弘斗にスケートボードを教える高校生の小泉彰にKaya
不登校になった中学生の高田弘斗に林裕太
弘斗の姉の高田恵美に三根有葵
和雄の父に利重剛
和雄の母にクノ真季子
精神科医の宇野正子に室井滋
向き合い方
自律神経失調症の男性がランニング療法で再生を目指す。 もう少し爽や...
地味だ。
この病気の事。
静かに響く良作。
心を病み運動療法を勧められて以来狂ったように走り続ける和雄。夫の心の回復を粘り強く待つ内に自らの心も疲弊してゆく純子。2人が唯一本音を打ち明けられる和雄の旧友研二。
そして和雄と偶然知り合う若者達。バスケ部内でいじめに遇うスケボーが上手い彰。不登校で金髪の高校生弘斗。弘斗の姉でよからぬ噂がある恵美。誰もが外からは見えない傷を抱えている。ひたすらに走るその姿は力強くさえあった。2つの物語が絶妙な距離で交差します。それは昔の自分であり、大人になった自分の姿。
簡単に戻ってくれない壊れた心。自分自身をコントロールできない不甲斐なさ、もどかしさ、そしていつまでこの状態が続くのかという恐怖。生きなくてはと思う反面、心の片隅にある死に対する憧憬。見事に和雄の繊細さを演じきった東出昌大が素晴らしかった。
ある出来事をきっかけにまた堕ちてしまう和雄。そして純子。どうしてこうなってしまったのか。2人の未来にどんな答えがあるのか。それは観る側に委ねられる。私にはジーンと響くシーンが多かった。めちゃめちゃ良作です。ニコもかわいかった。
批判を受けないためだけの無難な映画
静かで奇をてらった特別な演出もないので、良く言えば批評家や同業者が「安心して」誉めてくれそうな作品。新しさも瑞々しさ(批判する要素になりうる)もまるでなかった。
主演の女優が綺麗だから見ていられるが、役柄としては無理やりとってつけたのが明白。(後で知ったが、原作には出てこないらしい)
ただただ、不遜な監督の自己満足に付き合わされた印象。
心の病、簡単ではない
佐藤泰志さんの原作作品としては「海炭市叙景」、「そこのみにて光輝く」、「オーバー・フェンス」、「きみの鳥はうたえる」に続き5本目でしょうか。観る人を選ぶとはいえ愛おしい作品たちだ。
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今作もまた海炭市・函館が舞台。東出昌大さん演じる主人公は心を病み、奈緒さん演じる妻と一緒に東京から故郷・函館へ戻った。
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精神科医の勧めに従い街を走る。
毎日ひたすら走り続ける。
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走れない自分は正直羨ましかった。
走ることで浄化されるのではとマジで思った。
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まあ、そう簡単には行かないわけで。
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最後まで苦しかった。
簡単ではなかった。
だから信じられるんだろうなぁ。
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41歳で命を絶った佐藤泰志さん。
やはり生きづらかったのだろう。
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ということで今作もまた観る人を選ぶ作品。客観的に観て楽しむ作品ではないので、病んだ記憶がない人は観なくていいと思う。
淡々と進んで行く作品の中に日常の生きにくさみたいなのがしっかり出て...
私の好きな俳優・東出昌大
東出昌大が久々の主演ということで鑑賞。
予告を見ても特別面白そう!という訳でもないので、そこまで期待せず見ることに。奈緒も出てるし、役者目当てって感じかな。
まぁ、こんなもんかな。
自分に合ってるか合ってないかと聞かれれば合っていないけれども、見る人によってはすごく響くのでは無いかと思った。
心のバランスを崩し、故郷である函館に妻・純子(奈緒)と共に戻ってきた工藤和雄(東出昌大)。精神科医に通いながら、毎日ひたすら同じ道を走り続けている彼は徐々に心の平穏を取り戻してくる。
原作者が「きみの鳥はうたえる」の人だったのかこの作品。見る前に確認しておけばよかった。正直、きみの鳥はうたえるめちゃくちゃ苦手な映画でして。映画では余計なことはしないですから、観客のあなた方が勝手に解釈してください系が性にあわないんですよね。まぁ、知ってても見に行ってたけどね。やっぱり本作もちょっとキツかった。
雰囲気と映像はとてもいい。
居心地がいいし、函館の風景はスクリーンに映えるし。ひたすらに走る主人公を追いかけるカメラワークもなかなかなもので、何かのMVを見ているかのような気分になった。Tiffanyの長編CMみたい。
グッと引き込まれる何かがある。
特に何かが起こるわけでもないけれど、意外と退屈はしないしいつの間にかクギズケになっている自分にふとしたタイミングで気付く。ドラマよりも圧倒的に映画向きだなと思える作品だった。
やっぱり東出昌大という俳優が好きだ。
ココ最近の演技力の向上が著しい彼だが、本作も口数は少ないが挙動や感情表現をすごく繊細に演じており、東出昌大だからこそ出来た役だと思う。これからも俳優として活躍して欲しい。
ただ、個人的には響かなかった。
んー、どんな人に響くのかなと思ってしまった。何を伝えたいのか、何が言いたいのかがさっぱりで、原作もこんな感じかと思うとゾッとする。小説でだと絶対に読み終えれる自信が無いから。
見ごたえも、満足感もゼロ。
何を楽しみにしてこの映画を見ればいいのだろうと結構序盤で思ってしまい、退屈はしないけどもどかしかった。終わり方もなんかなぁって感じだし、全体的に薄っぺらくてあまり印象に残らなかった。
そういうのを総じて楽しむのがこの映画だと思うんだけど、やっぱり自分には合いませんでした。
朝も早うのに結構な人数。70越えの方がほとんどですけどね。
主人公を襲った病気の怖さ
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