劇場公開日 2021年7月10日

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「洗練されたシステムの奴隷にされてしまう人間」東京自転車節 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0洗練されたシステムの奴隷にされてしまう人間

2021年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

これは必見。コロナ禍で仕事のなくなった若い映像作家が、出稼ぎ目的でウーバーイーツをやることにして、最初(2020年4月)の緊急事態宣言下の東京を自転車で駆け巡る。出稼ぎでやっているのに全く金がたまっていかない。雨の日もカンカン照りの日でもせっせと自転車を漕いでいく。でも、その日暮らしがやっと。
その日暮らしになってしまうのは主人公自体の駄目さもある。もっと計画的にふるまえればもう少しお金貯まるんだろうという気もするが、この世の中はだれもが合理的に動けるわけじゃない。
というか、ウーバーイーツみたいな「便利な」サービスは合理化の権化のようなところがあると思う。合理的というのは、今の社会では「人間的」なものよりも価値のあるものになってしまっている。人間くさい主人公がそんな合理的なものの「奴隷」にされてしまう現実がありありと映し出されている。
ウーバーイーツの配達をやりすぎて、最後の方はちょっと正気を失ったような感じになっていく。チャップリンの『モダン・タイムス』にも通じる皮肉と狂気が宿った作品だ。チャップリンの時代よりも、現代はさらにシステムは洗練され、人間はシステムの一部として振舞わないといけなくなっている。青柳監督のような人間くささは失われるしかないのか、非常に鋭い問いかけをしている作品だと思う。

杉本穂高