劇場公開日 2021年7月9日

  • 予告編を見る

「大企業による環境汚染の実話を喜劇化する韓国映画のバイタリティー」サムジンカンパニー1995 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0大企業による環境汚染の実話を喜劇化する韓国映画のバイタリティー

2021年7月4日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

笑える

楽しい

幸せ

韓国で起きた工場排水汚染問題の実話に基づくストーリーで、登場するのが大企業の「サムジン電子」と聞き、サムスン電子のことかと早合点したが、正しくは斗山グループという日本ではあまり馴染のない複合企業体を構成する「斗山電子」が1991年に起こした事件に着想を得たという。

高卒の女性社員はどれだけ能力があろうが貢献しようが昇進できず、男性社員の補助とお茶くみしかさせてもらえない職場……とまあ、韓国に限らずかつての日本企業でも当たり前のように見られた光景(今でも?)。高卒組仲良しトリオのうちの1人が、自社工場がフェノールという汚染物質を大量に川に排出しているのを目撃し、上に報告するものの、検査結果の数値をごまかして隠蔽しようとしているらしい……というわけで、3人組は解雇の危険も顧みず、素人探偵よろしく真の検査データを見つけ出し、汚染問題の真犯人は誰かを探り、さらには裏で進行中の巨大な陰謀に迫っていく。

実話ベースということで、当然健康被害者も大勢出したと思われるが、それをコメディタッチで劇映画化してしまうのが韓国映画のバイタリティーか。日本で似たような企画を立てたとしても、主要人物の1人か2人はルックスの良い人気女優を起用し、恋愛要素も適当に足して若年層の動員を狙うマイルドな作風になりそうだが、本作は色気もほぼゼロ。そのぶん、彼女たちがひどく差別的な待遇に甘んじながらも本当に会社を大切に思っていて、内部告発によって会社を正し、誇りを持てる職場にするんだという熱い思いがしっかり伝わる。隠蔽の犯人探しも、二転三転どころか、四転も五転もして陰謀につながっていく物語構成がコテコテで、それがまた韓流らしさを醸している。

男女格差の是正がなかなか進まない今の日本で、不本意な境遇にありながらもがんばっている女性たちの励みになり、また男性たちの意識改革にも一役買ってくれることを大いに期待したい快作だ。

高森 郁哉