「1995年のインパクト」劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM 前編 君の列車は生存戦略 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
1995年のインパクト
10年ぶりに見たけれど、いい感じにディテールを忘れていたので新鮮な気持ちで見られた。あのご機嫌なバンクシーンは何度見ても面白い。「何者にもなれないお前たちに告げる」というシンプルだけど力強いフレーズは、本当に何者にもななれなくて苦しんだことのある人全てに刺さる。前編である本作は、ピングドラムの謎を追って登場人物たちがコミカルに右往左往する様が中心だが、冒頭に新規シーンを追加して、作品世界に奥行きを与えていて謎解き感覚で見ていけるようになっている。
1995年の地下鉄サリン事件をモチーフにしている本作だが、あの事件は「何者かになりたかった」若者たちが怪しげな教祖にそそのかされたことの顛末だとすれば、事件につながる根本的な動機はそこいら中に転がっているともいえるかもしれない。特別な存在になって、ここではないどこかに行きたいという素朴だけどだれもが持ったことのある欲望の暴発した事件だった地下鉄サリン事件から学べることは数多い。本作のようにそれを変奏して語り継ぐ作品はもっとたくさんあっていい。
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