「時代に問いかけるエポックメイキングな作品」ブラックバード 家族が家族であるうちに 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
時代に問いかけるエポックメイキングな作品
夕暮れの空を鳥が飛んでいく。あの鳥は何という鳥だろうか。影になって黒い鳥にしか見えない。何処へ飛んでいくのだろう。リリーの目にはどのように見えていたのだろうか。
本作品は達者な役者陣による会話劇である。シチュエーションがユニークで、家族の誰もがそれを受け入れなければならないが、ひとりひとり人生観が異なる以上、受け止め方も納得の仕方も異なる。その位置エネルギーの差がそのまま正のベクトルとなってストーリーを力強く推し進めていく。
儀礼的な態度や発言は、次第に綻びはじめ、家族はそれぞれに押し殺していた気持ちや人生観がそこかしこで漏れるようになる。ダムの決壊みたいで、最初はチョロチョロとこぼれていたのが、気がつけば激流となって流れ出す。しかしそれらが合流して大きな本流と慣れば流れは落ち着き、ゆったりとした大河になる。
安楽死を決意した母親の気持ちをどのように捉えるかによって立ち位置が決まる。ケイト・ウィンスレットが演じた長女ジェニファーは、本人が決めたのならそれでいいのではないかという立場だ。常識人であり、昔ながらの倫理観の持ち主であるジェニファーだが、母親の破天荒な人格に接して、常識や倫理では測れない人間関係があることを知る。相変わらず素晴らしい演技で、登場人物の考え方を図る基準となっていた。
アナを演じたミア・ワシコウスカは本作品ではじめて見たが、なかなか存在感のある演技で、平穏なはずの家族に風雲を巻き起こす。この人が空気をかき回さなければ最後の大団円はなかった。
安楽死や尊厳死を扱った作品は多いが、大抵は病院のベッドに縛り付けられているか、または在宅医療でやはりベッドに寝たきりの患者である。本作品のように歩ける人を安楽死させるというのは新しい。スーザン・サランドンの名演もあって、アメリカ映画にしては珍しく、時代に問いかけるエポックメイキングな作品だと思う。