「リアルでした」愛のくだらない 美姫ちゃさんの映画レビュー(感想・評価)
リアルでした
TV局内の人々を描く映画は、私たち一般人をどこか見下したような、「業界人でーす」という軽薄さに堕しやすいものですが、この映画は、普通にお仕事ドラマとしての生々しさを見せてくれていて、その場所が建築会社でも不動産屋でも印刷会社でも缶飲料メーカーでも化粧品会社でも変わりのないような、一社会人・一女性としての生き方問題映画になっています。厭味のないリアリティーの出し方に、ところどころの意外性もあいまって、飽きずに観られました。
夜の街角での主役男女の重要なやりとりシーンなどには、等身大の邦画を観ているウットリ感をたくさんもらい、そこに限らず途中途中で、監督への感謝の気持ちが私の中に湧きました。あらためまして、ありがとうございました。田辺弁慶の受賞も、おめでとうございます。
でも、お風呂場で滑った後が、あまり私の期待しなかった方向への飛躍でした。滑り方も釈然としないし、砂浜での二人歩きでごまかされたような、不完全燃焼の残念さがありました。
SNS拡散の件は、監督がどうしても描き入れたかったエピソードの一つなのだとは聞いてますが、展開的には不要というか唐突な感じがしました。バーで出会った男性が議員じゃなく全然違う種類の人で、全然違う流れがそこからあった方が、深みが出たと思います。具体的には思いつきませんが。
彼氏の事情については、「像像妊娠」という言葉が一度も出ませんでしたね? 無精子症をコンプとして抱えるがゆえのノイローゼ的妄想であるなら、堂々とそれを説明的キーワードとして使っていいと思います。荒唐無稽感を減らして一貫したリアリズム映画にした方が完成度が上がったでしょうから。中盤のせっかくの想像妊娠ネタがあっさり脇へ寄せられてしまったのは残念でした。
演技は皆さん最高でした。