「ロシア兵とクウライナ兵は妥結点が見出されるか?」クレッシェンド 音楽の架け橋 アッサミーさんの映画レビュー(感想・評価)
ロシア兵とクウライナ兵は妥結点が見出されるか?
オーケストラは様々な楽器で構成され指揮者の下、メロディーを奏でる。まず求められるのは、それぞれの楽器の技量だ。一所懸命、つまり自分の役割を命懸けで成し遂げる。しかし本作でも言われたが、それだけでは音楽にはならない。相手の音を聴き呼吸を合わせる。協調性はありふれた言葉だが、私はそれを一緒懸命と言いたい。これが多分、この映画の主題の一つだろう。つまり異なる価値観や歴史的な背景と文化を持つ者同士が一緒に事がなせるのか、どうか。今ならウクライナ兵とロシア兵が平和を希求し、和平に向けて行動する。それは困難を極めるだろう。でも前線のロシア兵も徴兵された者なら被害者とも言える。その視点に立てば可能かもしれない。本作にも相手の存在を認識させるワークショプが数多く紹介されていた。
結局、予定されていたコンサートは叶わなかったけど、マエストロは彼らに種を撒いた。価値観を全く異なる者同士でも、相手の側に立って想像力を働かせれば妥結点が見いだせると。何れ彼らは自分たちの手でコンサートを開くだろう。それをマエストロは一生懸命、やれと送り出したと思う。
伏線として、マエストロの父親もかつてユダヤ人絶滅収容所で医師をしていた。北イタリア経由で南アメリカへ逃走を試みたが、母親とともに、途中で見つかり射殺された。
自分はそのナチの子供だ、ドイツとユダヤ。イスラエルとパレスチナ。
セパレートされた空港の出発ロビーには確かに分断線があったけど、それは透明なガラスなんだ。見ようとすれば相手の存在は見える。あのボレロの演奏の中に、一生懸命生きろという長く重い宿題が見えた。
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