「【”艱難辛苦、汝を玉にす。”コツコツと長年掛けて習得した”糸男”の服作りの技術は、どのようなオーダーにもお応え出来ます・・。不思議な味わいの素敵な映画である。】」テーラー 人生の仕立て屋 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”艱難辛苦、汝を玉にす。”コツコツと長年掛けて習得した”糸男”の服作りの技術は、どのようなオーダーにもお応え出来ます・・。不思議な味わいの素敵な映画である。】
ー 序盤、台詞が殆どない。
父と営む高級スーツの仕立て店で働くニコスの靴のアップと、トントンと靴をリズミカルに動かしながら、布を裁断し、ミシンで縫うショット。
印象的な幕開けだ。ー
◆感想
・ニコス(ディミトリス・イメロス:初見だが、不器用さ、戸惑い、少しのユーモア、緊張、喜びを微妙な眼の変化で演じている印象深い俳優さんであった。)は、父と共に高級スーツの仕立て店で働くが、店の名に彼の名はない。”息子”とだけ、付け足しのように店名に書かれている。
ー こんな、店名は見たことが無いが、ストーリー展開的に、絶妙な名前である。尚且つ、ニコスが厳格な父親に頭が上がらない事も示している。ー
・ニコスの隣人、タクシー運転手を夫に持つオルガ(タミラ・クリエヴァ:同じく初見だが54歳とは思えぬチャーミングな女優さんである。)と悪戯っ子の娘ヴィクトリアちゃんと、ニコスの関係性の描き方が面白い。毎晩、糸に紙の舟をぶら下げて遣り取りするニコスとヴィクトリア。
ー ニコスが、店に客が来ないので屋台を作り、”移動仕立て屋”を始めるシーン。
最初は全然売れないが、ウエディングドレス製作を請け負ってから、店はドンドン繁盛し、オルガも服作りに協力。
ヴィクトリアちゃんも売り子として、大活躍。
皆、嬉しそうである。ー
・徐々に距離を縮めるニコスとオルガ。
ヴィクトリアちゃんは、女の子らしく微妙な二人の変化を察し、夫も・・。
ー ここで、普通は一波乱あるのだろうが、今作ではそうはならない。
唯、ニコスとオルガは夕暮れの海岸で、ニコスの故郷だという島を見ているのである。
ニコスの言葉
”あの島には、戻れない・・。お葬式しかしないから、スーツしか作れないんだ・・。”
もう、彼はスーツしか作らない仕立て屋さんではないという事を、キチンと示している。ー
・病に臥せっていた父が、息子が”移動仕立て屋”をしている事に対して言った言葉。
”恥ずかしい事をするな””仕立て屋をやっているだけだ!”と初めて父に言い返すニコス。
そして、久しぶりに差し押さえになってしまった自分の店に来た時の父がニコスが仕立てたウエディングドレスに触れ、言った言葉。
ー 父が、ニコスの頑張りを漸く、認めたシーンである。ー
<ラスト、随分と立派になった銀色の移動式仕立て屋が道を誇らしげに走って行く。その側面には、ニコスのフルネームがしっかりと記されている。
少し不思議なトーンの、けれども素敵な映画でありました。>