「BLM運動の尻馬に乗ろうとする胡散臭さがぷんぷん漂う」ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
BLM運動の尻馬に乗ろうとする胡散臭さがぷんぷん漂う
恐ろしいタイトルをつけたものである。何だか、ビリー・ホリデイという、一人の黒人女性ジャズシンガーが、あたかも国家権力と戦うパルチザンか何かのようではないかw
本作の映画評が高くない大きな原因は、このいわくありげで胡散臭いタイトルと裏腹に、ビリーの男女遍歴とドラッグ、アルコール中毒に終始した中途半端な内容によるものだろう。
タイトルに込められた製作者側の意図は、米国政府がビリーの『奇妙な果実』のヒットによる黒人差別反対運動の拡大を恐れて、彼女を破滅させるためにあれこれ工作を仕掛けたが、ビリーは最後まで屈することはなかった…というようなことらしい。
wikiで彼女のバイオグラフィを読むと、『奇妙な果実』がレコード化され、発売されたのは1939年。大成功を収めたというから、相当数のセールスを記録したはずだ。
そして、彼女が大麻所持で逮捕されたのは1947年。麻薬取締役局DEAの捜査官のインタビューによると、「クスリ漬けの有名なジャズマンを狙ったのは、成績を上げるというよりDEAの宣伝のためだった」という。政府部内での立場を引き上げるのが目的だったわけだ。
確かに、『奇妙な果実』を聴きたければ、いつでもレコードで聴けるのだし、彼女がライブで歌うことで、差別反対運動の大勢にどれほどの影響を及ぼすというのか、かなり疑問ではある。そもそも米国の公民権運動自体が始まったのは1950年代だから、時代が早すぎる。にもかかわらずDEAならぬFBIが彼女をターゲットにしたというのが、にわかに信じかねる。
米国ブラック・ライブズ・マター運動が全米に拡大したきっかけは、2020年のジョージ・フロイド殺害事件だった。本作が制作されたのが2年後の2022年。BLM運動の尻馬に乗ろうとする胡散臭い感じがぷんぷん漂う、と言ったら、怒られるだろうかw
映画の内容に戻ると、悲惨な彼女の生い立ち、あっという間に人気歌手に上りつめたこと、ひっきりなしの男関係、女関係、そしてアルコールと薬物中毒と、伝記的エピソードに公民権運動らしき要素をてんこ盛りにして、何が何だかわからない、という印象が強い。救いはアンドラ・デイの見事な歌唱くらいかな。