劇場公開日 2022年2月11日

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「反戦を訴えたジョン・レノンも米政府の弾圧と闘った」ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0反戦を訴えたジョン・レノンも米政府の弾圧と闘った

2022年2月28日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

米国における黒人差別と闘った音楽アーティストの伝記映画としては、近年の「ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男」や、アレサ・フランクリンの半生を描いた「リスペクト」などが記憶に新しい。2013年以降のブラック・ライヴズ・マター運動に呼応する映画人の動きという一面もあるのだろう。ただし活動した時代で考えると、JBやアレサの先駆的存在がビリー・ホリデイだったことが、本作を観るとよくわかる。

彼女の代表曲「奇妙な果実」の歌詞が黒人へのリンチを歌った内容(暴行されて木に吊るされた黒人の遺体を、“果実”にたとえた)であることは知っていたが、黒人社会への影響力を恐れたFBIから標的にされたのは本作を観るまで知らなかった。思い出したのは、ジョン・レノンがビートルズ解散後にニューヨークに移り住んだ1970年代、ベトナム戦争に反対し平和を訴えたことで、ニクソン政権下のFBIから盗聴や国外退去といった嫌がらせや弾圧を受けたこと。自由の国を標榜する一方で、平等や平和を訴えて体制に異を唱える人間に対して政府機関が圧力を加えたり攻撃したりという、あの二面性は一体何なのか。

ともあれ、ビリー・ホリデイの通称“レディ・デイ”から“デイ”を芸名につけたという歌手、アンドラ・デイの運命とも言うべきビリー役での主演起用だ。「奇妙な果実」などの魂のこもった歌唱が素晴らしいだけでなく、麻薬、アルコール、DVなどに苦しんだ過酷な状況も迫真の演技で体現している。「プレシャス」のリー・ダニエルズ監督らしく、アーティストを神格化するのではなく、精神的に弱い部分もしっかり描いて一人の人間のありようを示すからこそ、国家という強大な相手に屈しなかった偉業がいっそう光り輝いて見えるのだろう。

高森 郁哉