劇場公開日 2022年5月27日

「純粋な青春に感動する」20歳のソウル 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5純粋な青春に感動する

2022年6月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 前半は吹奏楽部版のスポ根ドラマみたいで、想定していたのと違ってあれ?と思ったが、それは後半の怒涛の展開の前フリだった。
 人生80年を4つに分割して、青春、朱夏、白秋、玄冬とすれば青春は二十歳までとなる。舟木一夫の「高校三年生」を持ち出すまでもなく、青春の頂点は高校三年生の17歳、18歳にあると思う。恋もすれば喧嘩もする。得意になったり絶望したり、壁にぶち当たって挫折したり、ひょんなことから乗り越えられたりと、とにかく忙しい時期だ。
 本作品を観て自分の青春と重ね合わせると、自分はなんという不純な青春を過ごしたかと灰心喪気となり、逆に本作品の純粋な青春に感動する。かくも美しい青春が実話だったのだと思えば、更に感動する。

 佐藤浩市が演じた吹奏楽部顧問の高橋健一の男泣きには、哀しみだけではない万感の思いが伝わって来て、こちらまで胸が熱くなる。大変な演技力だ。
 それに輪をかけてよかったのがおかあさん役の尾野真千子で、誰にも心配をかけまいとする健気な息子の心を、この人の演技が鏡に映すように浮かび上がらせる。こんな立派な息子を愛さないでいられる母親はいない。そんな演技だった。
 おじいさん役の平泉成はいつもの感じだったが、担当医を演じた高橋克典が思いがけずよかった。こういう役もできる訳だ。

 主演の神尾楓珠の演技も悪くなかったが、脇役陣の名演技にも助けられたと思う。本人からと、周囲からとの両面から光を当てることで、主人公浅野大義の純粋な人柄を浮かび上がらせ、作品に立体感と奥行きを出している。上手な演出だ。

耶馬英彦