「音の世界に目をつけた発想力が素晴らしい」ブラックボックス 音声分析捜査 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
音の世界に目をつけた発想力が素晴らしい
世の中には「音」に焦点を当てた映画がいくつかある(「ギルティ」「ミッドナイト・クロス」など)が、航空事故の原因を探る上で不可欠なブラックボックスと、そこに刻まれた音を読み解く専門分析官を登場させた時点で、本作の独自性はある程度担保されたようなものだ。その世界は、闇に広がる出口なき迷宮。そこから何かを聞き取ろうと入り込むあまり、何が真実で何が幻聴か、その境界線を見失う者だって存在する。果たして主人公が辿る道はどうかーーー。冒頭からワンカット風の映像で旅客機内の構造を簡潔に描き、巻き起こる惨事については決して映像で見せることなく、観客は主人公の特殊な技能に身を預けながら想像力を働かせる。ピエール・ニネ演じる主人公がまた絶妙だ。少々生きづらさを感じるほど真面目すぎるところが難点だが、それゆえキャラクターが人間らしく息づき、彼が立ち向かうサスペンスも息切れすることなく映える。見応えある良作である。
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