「理性的な法治国家のフリをした犯罪行為」モーリタニアン 黒塗りの記録 kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)
理性的な法治国家のフリをした犯罪行為
国家がからんだ法廷ドラマはエゲツないものが多い。国家が「反政府」とみなした者に対してはなりふり構わず攻撃してくるから。しかもそういうときの国家(もしくは国家の手先となって動いている輩)は、理性的な法治国家のフリをしているからかなり厄介だ。
本作に登場するモハメドゥは政治犯ではないが、扱いが政治犯のようだった。9.11テロの実行犯を組織に勧誘したという容疑をかけられ、裁判も行われないまま収容所で尋問が繰り返される。彼への扱いの酷さがほんの15〜20年前の話だってところが恐ろしい。
でも、それよりも印象に残ったのが、テロの関係者を裁きたいというアメリカ人の思いの強さだ。もちろんテロの首謀者や関係者は裁かれて罪を償うべきとは思うが、誰でもいいってわけじゃない(劇中でもこう言っていた良心的な人もいたけど)。本作に登場した人たちは、とにかく怪しいやつは罰を与えるべき!みたいな論調だったことが一番怖かった。本当に誰でもいいから生贄をこしらえようとしていたんじゃないか。これってどの国でも似たようなことが起きれば同じような反応になってしまう可能性があるってことなのかもしれない。本当に怖い。
そんな当時の異様な雰囲気をうまく演出し、ドラマとしてきちんとエピソードを組み立てていたので、少し難しいテーマなのに飽きの来ない脚本だった。裁こうとする側、護ろうとする側、そして裁かれようとする側。それぞれ、自分の中の真実と良心を守ろうする姿勢と苦悩が描かれている。演じている役者も含めて素晴らしかった。
ちなみにモハメドゥが拘束されたのがブッシュ(息子)政権のときで、釈放の判決が出たのはオバマ政権のとき。でもその後さらに6年も拘束が続いて、トランプ政権になる前に釈放されたということか。共和党だろうが民主党だろうが大差ないってことがわかる。見せしめのために死刑になっていたかもしれない。本当に生きて母国に帰れてよかった。