劇場公開日 2022年1月14日

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「「ありがとう、トニ・エルドマン」のサンドラ・フラーが脇役ながら好演。ベースと鍵盤のデュオ、ブレーマー/マッコイの劇伴も良い」アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「ありがとう、トニ・エルドマン」のサンドラ・フラーが脇役ながら好演。ベースと鍵盤のデュオ、ブレーマー/マッコイの劇伴も良い

2022年1月24日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

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まずキャスティングがいい。主人公アルマ役のマレン・エッゲルトは、そろそろ中年の域にさしかかろうかという年齢で、美人ではあるが地味目で堅物の印象。研究一筋で恋愛にはあまり縁がなかったのだろうなと自然に思わせるルックスだ。アンドロイドのトム役には端正な顔立ちのダン・スティーブンス、的確な身体動作で機械的な動きを見事に演じてみせ、驚きとともに笑いも誘う。英国人俳優ゆえドイツ語に訛りがあるのだが、それをしっかり脚本に反映したのも巧い。2人に比べ出番は少ないが、「ありがとう、トニ・エルドマン」で最高だったサンドラ・フラーが相談員役で健在ぶりを見せてくれる。

人間と機械(ヒューマノイド、AIなど)の恋愛の可能性を描くSFテイストの作品は多数あるが、人間が男性、機械が女性という組み合わせに偏っていたのは、SFの作り手に男性が多かったのも一因だろう。原作の短編小説を書いたエマ・ブラスラフスキ、監督のマリア・シュラーダー(役者でもある)はいずれもドイツ出身の女性で、かの国で女性の社会進出が進んでいることを喜ばしく思うし、女性側の視点や考え方を学べるという点で男性にとっても貴重だ。

とはいえ、本作はハードSFというわけではなく、どちらかと言えばアルマとトムの関係性の変化を通じて、人間と機械、あるいは人間同士のコミュニケーションとは何かという、ある種哲学的な思索を促すような内容になっている。ジャンルは違えど、平野啓一郎氏の小説『本心』で描かれた、仮想空間で故人を再構成する“ヴァーチャル・フィギュア”を介して問いかけるテーマに通じるものがあると感じた。

サウンドトラックのセンスもとてもいい。本作で初めて聴いたのだが、アコースティック・ベースのジョナサン・ブレマーとキーボードのモーテン・マッコイのデンマーク人デュオ、ブレーマー/マッコイによる北欧ジャズ風味の空間と残響を活かした音楽が、映画のエモーションに心地よく寄り添う。Spotifyで多数の曲が聴けるので、気に入った方はぜひ探してみて。

高森 郁哉