「完璧すぎると居心地が悪い」アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド よしえさんの映画レビュー(感想・評価)
完璧すぎると居心地が悪い
SF映画に見られる特殊効果は極力抑えられ、トムを演じるダン・スティーヴンスの演技力だけでアンドロイドらしさを表現するという、ある意味ストイックな作品。一種のシチュエーションコメディのような仕上がりになっているのだが、それが却って物語の特異性を浮き彫りにするような形になっていて面白い。トムは人型ロボット(原語ではそう言っているのだけど字幕は常にアンドロイドになっている。細かいことを言うと、完全に人を模して作られたトムの場合、アンドロイドと呼ぶ方が正しい)なので、感情らしきものを表出したとしてもそれはそういう動作をするようプログラムされているだけであり、ダン・スティーヴンスはちゃんとそう見えるように演技をしている。逆に言うと本作における面白みはそういったところしかないので、SFらしさを求めて観るとおそらく退屈な作品だろう。
また、アルマがトムにぶつける苛立ちは大変よく理解できる。完璧に自分向けに設えられたものというのは時に居心地が悪い。アプリなどで自分の嗜好に基づいて表示される広告に気持ち悪さを感じるのと同じだ。少しズレているくらいの方が人間には心地よいのだ。まして今、誰に対しても恋愛感情を持ちたくないアルマにとっては、むしろ心に棘を刺されるようなものだったろう。だからこそ、後半の展開がより心に沁みるのだ。
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