「多分この監督は人が悪い。しかし面白い」アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ 監督〈自己検閲〉版 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
多分この監督は人が悪い。しかし面白い
日本ではセックスについて正面から語られることは、日常生活ではあまりない。話そうとすると猥談と思われたり、場合によってはセクハラだと訴えられることもある。
しかし性は食と並ぶ基本的な欲望である。どこのメーカーのコンドームを使うとか、避妊リングは何がいいとかいった話題は、どこのレストランが美味しいとか、そういう話題と同じレベルで語られてもおかしくない筈だ。しかし現実はそうではない。
食事が公の場でも堂々と出来るのに対して、セックスは公の場ではできない。人類もかつては動物と同じようにいつでもどこでも公然とセックスをしていたと思う。それがいつしか秘め事となり、猥褻という概念が生まれる。
詳しくは文化人類学者に任せるとして、本作品ではヒロインが夫とセックスをした際に、アホな夫が撮影して動画をPCに残し、そのままPCを修理に出して、どこかのタイミングで動画がネットに拡散されてしまった訳だが、ヒロインが名門校の歴史の教師ということで、お堅い学校関係者によって大問題にされてしまう。
夜に開かれる保護者との会合を前に、ヒロインはブカレストの街をうろつく。街には不満と怒りと欲望が充満している。どの街も同じだ。金を持っている人間だけが街を満喫できる。貧乏人は苛立つだけだ。その苛立ちがヒロインに感染したように、怒りが増幅する。
保護者会に到着したときは、その怒りが最高潮に達したかのようだが、ヒロインは歴史の教師らしく、保護者たちの無知で筋違いな詰問のひとつひとつに理路整然と反論する。問題はセックスそのものなのか、拡散したことなのか、それともセックスを猥褻とするパラダイムなのか。
議論は一瞬だけ、本質的な議論に発展しそうになるが、旧態依然の倫理観の持ち主たちが邪魔をして、名門校にあるまじきだとか、破廉恥な行為だとかいった決めつけで終わってしまう。フェラチオもしたことのないような高慢な金持ちのおばさんが主導権を握る保護者会ではそれも仕方がない。
軍服を着て威厳を示そうとする保護者がいるが、道化にしか見えない。別の制服を着た男は、論理的な発言ができないで茶々を入れるだけだ。ルーマニアには馬鹿しかいないのかと思わせるようなシーンが続く。多分この監督は人が悪い。しかし面白い。結末はルーマニアの人々のくだらない倫理観と頭の悪さを嘲笑うかのようだ。